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花帰葬 |
| 08.1. |
| Little Black Riding Hood |
昔々、群の山小屋に玄冬と呼ばれる青年がおりました。 ある日、玄冬は彩の城にいる花白が風邪をひいて寝込んだと聞き、手料理を持ってお見舞いに行くことにしました。 出発の際、こくろが言いました。 「森には性質の悪いヤツがいるからな、そんなヤツの甘言に乗らず、寄り道しないで行くんだぞ」 …一回り年下のこくろにそこまで言われる玄冬って………。 「…(汗)わかっている。お前こそ、火には気をつけて留守番してろよ」 「ああ。お前も気をつけてな」 こくろに見送られて、彩へと向かう玄冬…え?徒歩?どんだけ掛かるの? さて、そんな2人のやり取りを、木の陰から見ていた黒鷹は 「くぅ〜っ、玄冬は最近私に構ってくれないくせに、ちびっことは遊ぶんだな…邪魔してやる!邪魔してやるぞ〜!!」 とハンカチを噛み締めながら、大人気ない決意に熱く燃えるのでした。 さて、玄冬が森の小道を歩いていると、どこからとも無く不審な鷹が空から舞い降りてきました。 「やあ玄冬、お出掛けかな?」 「黒鷹か…ああ、花白が風邪で寝込んだと聞いたんでな、見舞いに行って来る」 「そーかそーか。しかし、見舞いの品が食べ物だけというのは…味気無いんじゃないかな」 「そうか?」 「ああ。見舞いといったら花だろう、花。…そーいや、道を少し外れたところに綺麗な花畑があったなぁ。あれを摘んでいったらちびっこは喜ぶんじゃないかな?」 「…そういうものか?俺は…今まで人の見舞いなどしたことが無かったから良くわからんが。家の人間はみんな無駄に元気だし」 「じゃあ今日が君の初お見舞いということか…うんうん、お父さん感慨深くて泣いちゃうよ。玄冬にお見舞いに行くようなお友達が出来るなんて!…それが救世主というのが複雑だが…」 「?何をブツブツ言っている?」 「い、いやぁ、何でもないよ、うん」 「…変なヤツだな。まあいい。見舞いには花だな。だったら積んでくるか」 「そーしなさいそーしなさい、うんうん、ではな!玄冬!」 「あいつ…何を慌てているんだ?まぁいい、道を少し外れたところだな………こ、これは?!」 黒鷹に言われるまま道から外れ、森の中に入った玄冬!そこで、玄冬が見たものは?! さて、一方玄冬をそそのかす事に成功した黒鷹は、彩に向かって悠々と空を飛びながら、一人ほくそ笑んでおりました。 「玄冬は素直ないい子で助かったよ。さて、後はちびっこを何とかするか」 しかし、彩の国は白の力の総本山。黒鷹が一人で向かっても勝ち目はありません。 「だが、私にはこの頭脳プレーがある」 たかが玄冬一人出し抜いたくらいで、黒鷹は大変調子に乗っておりました。もうノリノリです。 「ふはははははは、待っていろよ、ちびっこ。玄冬は私と遊ぶんだーーーーーっ!!」 もはや黒の鳥としての威厳も、振る舞いも見る影なく、まるで駄々っ子のような宣言を高らかに叫んで、黒鷹は彩の城目指して羽ばたくのでした。 さて、彩の城の花白の部屋のテラスに降り立った黒鷹は、中に入ろうとしてギョッとしました。 なんと、花白のベッドの側に白梟がいたのです。これはピンチです。 ふと、白梟がゆっくりと黒鷹のほうを振り返りました。 どうしようかと鳥の姿のまままごまごしていると、白梟はゆっくり黒鷹に近づいてきます。 ガラス越しに白梟は言いました。 「黒鷹、何の用ですか」 「え?いや、ちびっこが風邪を引いたと言うんで、その、見舞いにな」 「そうですか。ですが、黒の鳥に見舞っていただく必要はありません。それに、花白は今眠っています。お引取り下さい」 取り付くしまも無しとはこの事です。 内側から鍵の掛かっているガラス窓を開けることなく、にっこり笑って門前払いです。 だが、足止めしたとはいえ、玄冬の足ならここに辿り着くのも時間の問題です。 それまでに何としてでも花白を玄冬から引き離さなければなりません。 「いやぁ、しかしあなたもいじらしいね。ちびっこが眠っている間に見舞いかい?あなたの事だ、ちびっこが起きている間は顔を出しづらかっただろう」 「…そんなことはありません。ちゃんと起きている時にも声を掛けました」 「どうせ、一言二言言ってすぐに立ち去ったのだろう。だからあなたはちびっこに誤解されるんだ。本当は心配でたまらないのに」 「…私達の事をあなたにとやかく言われる筋合いはありません。それより、用がそれだけなら立ち去りなさい、黒の鳥よ。病人の側でこれ以上騒がれては迷惑です」 「つーめたーいねぇ、白梟。わかった、じゃあせめてちびっこの顔を見せてはくれないか。そうしたら大人しく立ち去るから…というか、見るまではここを動かないぞ〜私は」 「………ハァ。わかりました。顔を見たら即刻立ち去りなさい、わかりましたね」 「わかった、わかった。だぁめだぞぉ、白梟、そんなおっかない顔しちゃあ」 「黙らっしゃい!」 ガラス窓越しに白梟の額を爪で突っつくマネをすると、お返しには冷たすぎる視線を食らって、黒鷹は首をすくめるのでした。 そして、まんまと室内に入り、しめしめと内心でニヤケながら人型に戻って花白の枕元まで来ると、何とパッチリと花白が目を覚ましたのです。 同時に、白梟と黒鷹は扉の方を振り返りました。 「………この気配…」 「くっ!遅かったか!!」 すると、扉が規則正しくノックされたのです。 「…お入りなさい」 「はい、門前に花白様のお友達という方が、お見舞いにお出でなってますが、お通しして宜しいでしょうか」 扉を開け、一礼をして入ってきた女官はそう言いました。 「お断………」 「入ってもらって、僕は平気だから」 白梟が何か言おうとするのを遮って、花白は目覚めたばかりの掠れた声でそういいました。 「まったく…あの子は群から彩まで一体どんな速さで来るんだ。これはもう、転移装置並だぞ、完全に計算違いだ」 悔しそうな黒鷹の呟きを聞いた者は、幸いながらいませんでした。 女官が下がると、黒鷹は花白に向かって言いました。 「いやぁグッドモーニング、ちびっこ。気分はどうかな?」 「…目覚めて最初に見たのがお前の顔じゃなければ、そう悪いものじゃなかったよ」 「そうかい、そうかい。いや、ちびっこが寝込んだと聞いてね、見舞いにきたのだよ」 「あっそ、それはアリガト」 花白は半眼で黒鷹を見ています、まるでその言葉の裏にある真意を探るかのように。 「なぁんだ?私が見舞いに来てはおかしいかな。ところでどうだい、喉は渇いてないかな」 妙に猫なで声で近づき、黒鷹はどこからか取り出した、作り物のように綺麗な赤いリンゴを差し出しました。 「風邪にはリンゴだろう。どうだい?私が剥いてあげるから食べないか?むしろ食べたまえ。ビタミンCは風邪にいいんだぞ」 妙に性急な黒鷹の態度に、花白の不審は募る一方です、というか、これは赤ずきんちゃんというより白雪姫じゃ…(汗) 半眼はついにジト目になり、突き刺すような冷ややかな視線で黒鷹を見据えてます。 「………アリガト。だったらまず、お前が食えよ、バカトリ」 引きつった笑顔を貼り付けたまま、黒鷹は全身から汗を噴き出しました、 それもその筈、このリンゴには、世界が滅びても3日は目を覚まさないくらい強力な眠り薬がたっぷり仕込んであったのです。 これぞ、「玄冬が来てもちびっこは寝てばっかりでつまらなくて、すぐ帰ってきた玄冬は私と遊ぶ」大作戦の全貌…だったのですが、どうやら一縄筋では行かないようです。 (くっ!さすがちびっこ…というか、もうじき玄冬が部屋に着いてしまうではないか!こうしている間にも、「玄冬」の気配が刻一刻と近づいてきているというのに…) こうなれば実力行使しかないと決意を決めたその瞬間。 ドアが規則正しくノックされたのです。 「………じゃあ私はこれで」 「何を慌てているのです、黒鷹」 今まさに姿を変え、窓から飛び去ろうとした黒鷹のコートの裾をしっかと握って、白梟は滅多にお目にかかれない綺麗な笑顔で言いました。 「…しろふくろう?」 「せっかく花白を見舞いに来てくれたのです、ゆっくりしていけば宜しいではないですか」 その瞬間、黒鷹は白の力で自分の逃げ道を閉ざされたことを知ったのです。 「いやぁ、そのぅ…」 「何だよ、バカトリ。玄冬に後ろめたいことでもあるわけ?」 花白もにやりと笑って、ゆっくりと身を起こします。 まさか自分が構って欲しいためだけに、玄冬を騙し、挙句花白を昏睡状態に陥れようとしていたなんて、大人気無さ過ぎて言えるわけがありません。 さすがにそれくらいの分別はあります。 「お入りなさい」 「失礼します。お客様をお連れしました」 「ごくろうさまです」 そして女官に誘導されて室内に入ってきたのは… 「く…っ、くろと?!」 あまりの意外性に、つい花白は素っ頓狂な声を上げてしまいました。 全身を覆う黒いローブ、そして眼鏡。菜ばしを持っているのが意味不明だが、そこにいたのは紛れも無く魔王の出で立ちをした玄冬だったのです。 「俺は玄冬では…」 「それは無限ループに陥るから置いといて…どうしたの、その姿」 「ん?これは何でもない、気分だ」 「〜〜〜っ!気分ってあのねぇ、きみ…」 「今日は普段野菜を食わないが故に、栄養バランスを崩して風邪を引いたお前のために見舞いに来たんだ」 「………あのね、僕は野菜食べない所為で風邪を引いたわけじゃ…」 「原因はともかく、今のお前にふさわしい物を持ってきた」 魔王玄冬がバスケットに掛けていた布を取ると、瓶詰めにしたリンゴのコンポートやらミルク粥の材料やらと一緒に、ドロリとした緑の液体が表れました。 もうそれだけで不吉です。 ベッドの上で後ずさりしながら、恐る恐る花白は聞きました。 「聞きたくないけど、聞かないのも恐いから一応訊くね?…玄冬、その液体………」 「ああこれか?」 玄冬は手にした小瓶を目の高さに持ち上げて、軽く振って見せます。 「黒鷹が見舞いには花だと言っていたので森の中に入ったら、風邪に良く効く薬草を見つけたんだ。ついでだから、風邪に効くようありとあらゆる野菜も混ぜてみた。 栄養満点だぞ」 「あ…あれ、ちびっこ…なにかな…その剣は、は…はははははは…」 玄冬の話が進むにつれ、花白はベッドサイドに立てかけておいた自分の剣にゆっくりと手を伸ばし、更にゆっくりと剣を抜いたのです。 俯き加減なので、前髪が陰になって花白の表情は見えません。ですが、表情が読めない方がより恐怖感が増します。 黒鷹は反射的に逃げようとしましたが、今だコートの裾を白梟に掴まれており身動きが取れません。 そんな3人に気付かずに、玄冬は子供のように嬉しそうな笑顔を浮かべて言いました。 「この時期、この薬草を手に入れるのは難しいんだ。運が良かったな、花白」 「バ〜〜カ〜〜ト〜〜リ〜〜」 その満面の笑みに、ついに花白は玄冬と反対側にいる黒鷹を殺意を含んだ視線で睨みつけます。 もっとも、その瞳は涙目になっていましたが。 「余計なことを〜!!」 「わ、私だって、足止めをするだけのつもりで…まさかこんな事になるとは思ってもみなかったんだ、信じてくれ!!」 「うるさいっ!結果が全てだ!!責任持って僕の代わりに飲めよ!!」 「できるか!そもそもあんな期待に満ちた玄冬の目の前で、君じゃなく、私があの緑汁を飲めると思ってるのか?!あれはちびっこの為に玄冬が作ってきたんだぞ!!」 「う…っ!それは………そうだけど…」 「そーだろ、そーだろ」 「何をこそこそ言ってるんだ、お前達」 尋常じゃない気配を漂わせた緑の液体を水差しのグラスに移し変えた玄冬は、怪訝そうに首を傾げます。 そして、ずいっとグラスを花白に差し出すと、 「さあ飲んでみろ」 と、自信に満ちた笑みを浮かべるのでした。 花白は引きつりながらも精一杯笑顔を作って言います。 「あ、あリがとウ、玄冬。後で頂くよ」 「そう言って、お前は薬だと思うと飲まないだろう。今すぐ飲め」 「ち…ちゃんと飲むから」 「だったら今飲め」 花白は背中に嫌な汗を感じながら、渋々グラスを受け取りました。 こうなると玄冬が引かないのは、経験上重々承知していたからです。 病床にあることもあって、これ以上抵抗する気力も体力も花白には残されていません。 とりあえず匂いを嗅いでみましたが、特別異臭はしませんでした。 ちらりと上目遣いで玄冬を見上げると、笑みを絶やさずに、けれど瞳はしっかりと花白を監視しています。 これでは、逃げようがありません。覚悟を決めるしか道はありませんでした。 (バカトリのヤツ…回復したら絶対八つ裂きにしてやる〜) 黒鷹を呪いつつ、毒杯をあおる覚悟で花白は一気に液体を飲み干しました。 … ……… ……………… 「あれ?甘い…」 「お前、苦いのは嫌だと言っていただろう。ちゃんと味にもこだわっておいた」 薬なのだから決して美味しいとは言えませんが、それでも花白が想像していたよりもずっと甘く、飲みやすかったのです。 「それを飲んだら、ちゃんと飯を食って、良く寝て、早く治せ」 いつまでも呆気に摂られたように空のグラスを覗き込んでいた花白の頭を、玄冬は軽くポンポンと叩きます。 自分の頭に手を乗せた玄冬を見上げながら 「…子供扱いしないでよ」 と、不満そうに花白が言うと 「子供だろう、薬を嫌だと言ってるようじゃ」 と言って、玄冬はそっと手を退けました。 そして、黒鷹に向き合うと 「ありがとう、黒鷹。お前が教えてくれた花畑が薬草だったんだ」 と、礼を口にしたのです。 これでは黒鷹も立つ瀬が無いというものです。これはあくまで、謀略が破綻した結果であり、そこに善意は無いのですから。 「い、いやぁ、私もお役に立てて何よりだよ、わは、わはははははははは」 とりあえず黒鷹が誤魔化すように笑うと、花白と白梟から雪より白く冷たい視線が黒鷹に注がれました。 もちろん、そんなことに屈する黒鷹ではありません。 今回は失敗したけれど、次こそは………。 まったく懲りない黒鷹は、ただ誤魔化し笑いを続けるのでありました。 「早く帰ってこないかな…大きい俺」 家の外、薪割りをする為の切り株に腰掛けながら、こくろは読んでいた本から顔を上げて空を見上げました。 今日は天気が良く気温も高くて運が良かった。 そう思いながら、こくろは深いため息をつきました。 ちらりと家の方を見ると、それだけで匂いがきつくなったような気がして知らず知らず眉間にしわが寄ります。 先ほど出かけたばかりの玄冬が帰ってきたと思ったら、突然何かを作り始めたのでした。 それだけならまだしも、「ついで」などと言って当人談「黒鷹用栄養補助ドリンク」なるものまで作り上げたのです。 これが、とんでもない異臭を発している為、こくろは家の中にいることに耐えられず、こうして外で読書する羽目になったのでした。 どうも、玄冬は一つの事に熱中すると周りが見えなくなる傾向があるようです。 困ったもんだ、ともう一度ため息をつくとこくろは本に目を落としました。 (どうやら今夜も一騒動ありそうだ。だったら今のうちにこの本を読みきっておこう…) よもやこんな罰が待っていようとは露とも知らず、黒鷹は彩の空の下、高らかに笑うのでした。 とりあえずめでたし、めでたし? |
K家姉 妄想日時:’07.秋 妄想場所:自宅 もっと短いお話だったのに、何故に私が書くと長くなってしまうのでしょう…もっとテンポ良く書きたいのに。 まだまだ修行不足…ううむ(-"-; タイトルの「LittleBlackRidingHood」とは赤ずきんちゃんの英訳「LittleRedRidingHood」をパロってみたり。 |