花帰葬
         
08.5.9      
 銀色の贈り物

桜が咲くまで不安だった。
桜が散るとまた不安になる。
緑が濃くなった桜の木の下に立ち、小さな文官は不安げに桜を見上げていた。

「どうしたんだい?こんな所で」
聞き覚えのある声に背筋が伸びる。「はい」と反射的に返事をして振り返ると、透き通るように色白の、綺麗な青年が立っていた。
「そんなに緊張しなくていいんだよ。どうだい?ここでの生活にも慣れたかい?」
「はい、灰名様。お陰様でとてもよくしてもらっています」
そう言ってぺこりと一礼をする。
「それはよかった」
笑うと何故か灰名がキラキラ光って見えた。
「それで…何をしていたんだい?」
「は…はい…桜の木を見ていました」
「桜の木…?」
文官に言われ、灰名も視線を木に向けた。緑の濃い葉が風に揺れる。
「もうすっかり緑になってしまったな。少し前まではあんなに綺麗に咲いていたのに」
「灰名様…」
「どうした?」
「私の役目は本当にこの国の役に立つのですか?本当に…」
不安げな顔を浮かべて見上げられて灰名は少し驚いた。
子どもとは言え、冷静で頭の回転も良く仕事もそつなくこなしている人間に見えていたから。
「勿論だよ」
「桜が…桜が咲くまでは不安で仕方ないんです。春が来るのかと。そして桜が散るとまた不安になるのです。来年は春が来るのかと…」
「玄冬のことかい?」
「はい…。いくら学ぶ事が好きで頭を良くしても…私には力がありません。 ですから本当に私のしていることがいつか救世主様の役に立つのかどうか…」
誰でも知っている玄冬の伝説。
その伝説に心から不安を抱いていた。
灰名は知っていた玄冬がこの世に誕生したことも、今どうしているのかも。それを考えると心が痛む。
「………そうだ。出ておいで銀朱」
灰名がそういうと背後から文官よりも小さな男の子が顔を出した。
「紹介しよう。息子の銀朱だ。…銀朱、こっちのお兄さんは文官だよ」
「ぶんかん…?」
灰名程整った顔とは言えないが、強い目をした愛らしい少年だった。
「銀朱、少し耳を貸してごらん」
「はい、父上!」
二人は内緒話を始めた。文官は何をしているのかわからず、ただ立っているだけだった。
「さぁ銀朱いっておいで」
灰名の言葉で銀朱が文官の方に駆け寄ってくる。文官の前に立つと満面の笑顔でこう言った。
「大丈夫だよ!僕が守るから!いっぱい強くなって玄冬からみんなを守るから!だから怖くないよ?」
そして、剣の素振りをする真似をしてみせた。
文官は思わず小さな銀朱を抱き締めた。
「ありがとうございます。銀朱様。もう…怖くないですから」
文官にそう言われると嬉しくなってまた笑顔になる銀朱。

(文官は…あのお兄ちゃんは玄冬が怖いんだ。銀朱、いつも家でやっている救世主の役みたいにお兄ちゃんを安心させてやっておくれ)
これが内緒話の内容だった。

「文官、君にはもう一つ特殊任務を引き受けて欲しいんだ」
「え…?」
驚いて顔を上げるとキラキラと笑みを浮かべた灰名がいた。
「銀朱は剣に関しては私の血を継いで上達が早い。しかし、勉強は全く苦手だ。だから銀朱が将来私の跡を継げるように勉強を教えてやってほしい」
「私が…ですか?」
「それに…強がって見せてはいるが、まだまだ子ども。兄のような存在も必要だと思うんだ」
「はい…!承知しました。灰名様。必ず銀朱様をお守りします」
灰名は満足げに笑う。
すると文官の手を引っ張る小さな手。
「銀朱様?」
「文官!早く行こうよ!」
「え?行く?行くって…どちらにです?」
全く話が見えない文官に、灰名が「忘れてた」と言うようにして説明をした。

「今日は君の誕生日だろう?皆でお祝いをしようと思って、準備が出来たから呼びにきたんだ」
「あ!」
仕事に追われ生活しているうちに誕生日のことを忘れていた。
「しかし…何故…」
「私は自分の部下達のことはちゃんと把握しているんだよ。さぁ早く行こう!あそこにはお腹を空かせた猛者達がご馳走を前に苦しんでいるはずだからね」
「ほら文官!早く早く!」
「待ってくださいよ〜」
三人は走り出した。

「文官が欲しいものはここにないかもしれないけど」
申し訳なさそうに話す灰名に迷わず答えた。




「いえ、もう十分戴きましたから」




K家妹
妄想日時:’08.5.9
妄想場所:ベッドのうえ

文官の誕生日SSはラスボスだと思います
時雨より少女達よりある意味タチが悪い
幸せにしようと頑張った結果子どもにしてしまいました
幸せにはなったかもしれないけど、いざ読み返してみると全部灰名殿に持って行かれてた…