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花帰葬 |
| 08.3.25 |
| Re・Birth |
世界の再構築だか、何だか知らないが、本来一つの時代に一人しかいない筈の救世主が三人に増えてから一年が経った。 今までも花白―――本来、この時代の救世主であるべき彼一人の時ですら、やれ講義脱走だ玄冬と逃亡だと散々追い掛けさせられたが、 更に追いかける対象が増えて、さすがに銀朱も辟易としていた。 今もそうだ。 彼は侍女達に泣きつかれて、渋々城中を捜す羽目になっていた。 本来は未来にいるべき…らしい救世主を。 「全く…俺だって仕度があるんだぞ…手間を掛けさせるな、馬鹿者」 ぶつぶつと一人文句を言いながら、幾つか目の心当たりを覗く。 そこに彼はいた。 庭園の隅、低木にもたれる様に横たわって、呑気に午睡を楽しんでいる。 こっちはお前を捜す為に、広大な城中を歩き回されたというのに………ムっと来て、銀朱は無駄に大声で声を掛けた。 「おいっ!!今日の主役がこんな所で寝てるな!!」 その声に救世主はゆっくりと目を開くと、側に立つ銀朱に気付き緩慢な口調で言った。 「ん〜〜〜〜…あ〜タイチョー、オハヨ」 「おはよう…じゃない!仕度ができなくて侍女達が困っていたぞ!」 「もうそんな時間?」 隠す気があるんだか無いんだか、一応は口元に手を持っていくものの、ほとんど丸見えの状態で救世主は 大きく欠伸をした。 そして身を起こすと、足の裏を合わせ、爪先を両手で持って体に引き寄せる、あぐら…というより、 柔軟に近い姿勢で銀朱を見上げ、眦に涙を浮かべながらにっこり笑う。 銀朱は片手を腰に当てると、そんな救世主を見下ろして溜息混じりに言った。 「あまり侍女達を困らせるな」 あーそうだねーとか何とか言っているが、本当に悪いと思っていないのは明らかだった。 やれやれ、と眼を伏せる銀朱の眉間に深い皺。 そしてこの一年で理解した事実を銀朱は口にした。 「お前、本当はパーティ嫌いだろう」 きょとんと救世主が銀朱を見た。 「お祭り好きな割に、パーティの前には良く姿を暗ますからな…今みたいに」 そう言うと、救世主はくっくっくと喉を震わせるように笑い出した。 「いやぁ〜タイチョーには敵わないなァ」 「花白も良くこんな風に逃げ回るからな」 「ああ、そっか」 なるほどなァと呟いて、救世主は天を仰いだ。 「変なトコ似ちゃってんだ、俺達」 花白が聞いたら即座に否定していただろう、顔が似ている…どころか殆ど同じ造作をしているだけでもうんざりなのに、 これ以上あんたと似ているところがあってたまるか!と。 救世主は、銀朱に笑いかけながら自分の傍らの地面を叩いた。 座れ、というその意思表示に銀朱は大人しく従う。 銀朱が腰を下ろすと、待ちかねたように救世主が銀朱の肩に持たれてきた。 桜色の髪が首筋を撫でて、少しくすぐったかったが、表情には出さず、ただ一言 「重いぞ」 と言っただけで、その頭を退けたりはしない。 そんな銀朱に甘えて肩を借りたまま、救世主はポツリと言った。 「タイチョー、これ、ココだけの話ね」 「何だ」 「ホントはさ、俺の部屋って今の花白の部屋の場所なんだよ」 特に感情を含まない、淡々と事実を語るその声に、銀朱は黙って耳を傾けた。 「イキナリこの時代に取り込まれて、なのにちゃんと俺の部屋はあったりするんだ」 けどさ…、そう言って何かを思い出すかのように、救世主は眼を閉じる。 「おかしいんだよな。そこは確かに俺の部屋なのに、窓から見える景色は全然違うんだ。そりゃそうだよな、俺の本当の部屋のあった場所にはさ、 花白の部屋があるんだし、当然場所が違えば景色も違うよなァ。何つーの?仕官して家を出てさ、 久々に帰省したら自分の部屋が弟の部屋になっちゃってマシタ…ってそんなカンジ?なんか、居場所が無いってゆーか寂しいってゆーか…」 そういう話は、良く彼の部下達にも聞かされる。 久々に実家に帰ったら自分の部屋が物置になってましたーというパターンもあった。 ここ数年城に詰めて寝泊りする事が多かったとはいえ、ずっと実家通いの銀朱には良くわからなかったが、士官学校を卒業した後所用で訪れた際、 ついこの間まで自分の『居場所』だったそこがやけに余所余所しく感じた…そんな感覚に近いのだろうか。 「白梟もさ、俺の知っている白梟は、ヒヨコといる時みたいに微笑(わら)ったりなんかしなかった」 なんか違うんだよね、と言って救世主は口の端を歪ませる。 笑みの形に似ていたが、それは決して笑っているようには見えなかった。 「城も、部屋も、白梟も…あそこと同じものは確かにあるのに、全部決定的に違うんだ。何か全部失くしちゃったみたいでサ」 殆ど唇の動きだけで囁いた、『それに…あの子の犠牲で続いた世界も…』という言葉は、銀朱の耳には届かなかった。 だが、救世主の気持ちは充分に銀朱に伝わった。 自分ならどうだろう…と思う。 突然大切なものを全て失って、ただそこで生きていかなければならないのだとしたら。 考えるだけで身震いがしたが、実際に今、銀朱が肩を貸している人物がまさにそうなのだ。 そして、銀朱には彼が失ったものを再び与える事は出来ない………だから、代わりにこう言った。 「つまり、お前は生まれ変わった様なものか」 へ?といつもの彼にはそぐわない間の抜けた返事が返ってくる。 何となく気恥ずかしくて、敢えて救世主の方を見ずにまっすぐ前を向いた。 「俺はお前が失ってきたものを取り戻してやる事はできん。だが、新しいものを一緒に探してやることくらいは出来る。 その手になにも無いのなら、これから幾らでも手に入れられるのだろう」 多分自分は残酷な事を言っているのだと思う。 今まで彼が手にし、そして失ってきた大切なものを諦めろと言っているのだから。 だが、二度と手に入れる事が出来ないものを偲んで生きるよりも、これから得るものを大切にして欲しかった。 その方が、この男らしいと思ったから。 自分の肩で、救世主が震えている。 「笑うな!」 銀朱が声を上げると、救世主は逆に押し殺す事を止めて盛大に笑い声を上げた。 「だ…だってさ、タイチョー」 言いながら、救世主の頭が離れる。 急に温度を失ったその場所が妙に寒く感じた。 代わりに救世主が真っ直ぐ自分を見る。 「タイチョーすごい真っ赤!」 「うっ!うるさい!!俺だって恥ずかしい事を言っている自覚はあるっ!!」 「でもまァ…」 救世主は爆笑の名残の涙を指先で拭いながら言った。 「確かに得たものはあるよ。平穏な日常も、シアワセそうな白梟も、欲しかった弟も………」 アイツに弟がいるの、実は結構羨ましかったんだよねぇと救世主は軽く眼を伏せた。 彼の言うアイツが誰の事を言っているのか銀朱にはわからなかったが、きっとそれも救世主が失った大切な者だろうと察しはついた。 掛ける言葉が見つからなくて戸惑っている銀朱に、救世主はにいっと彼お得意の人を食った笑顔を向ける。 「それに面白いおも…おっとタイチョーも」 「…貴様…今、俺の事を玩具と言おうとしただろう」 わざとらしく訂正した救世主のその言葉を、しかし聞き捨てることも出来ず、銀朱は青筋をこめかみに浮かべて追求した。 「しかも『面白い』とはなんだ、『面白い』とは…。全く、珍しくしおらしい事を言うから人が心配すれば…」 「うん、アリガト、タイチョー」 素直に礼を言われて、銀朱は思わず言葉を失った。 そしてそれ以上抗議を続ける事も出来ず、仕方無しに立ち上がる。 「ふん。大分時間を食ったな、そろそろ着替えんとパーティに間に合わなくなる」 「しょーがないなァ」 救世主も渋々といった体で身を起こす。 「お前が遅れたら洒落にならんだろう。今日の主役の一人なんだから」 「だって、パーティったら正装だろ?俺、アレ嫌いなんだよなァ…窮屈だし真っ白だから汚しそうで気を使うし」 普段から白を身に纏っている男がそうぼやいた。 「だが、陛下のお心遣いで開かれる救世主達の生誕パーティだ。今年は三人に増えたからと大層張り切っておられて、 それは盛大に行われるとの事だぞ。名誉に思えばこそそれを厭うなど不敬極まりない!そもそも陛下は………」 「あーハイハイ、アンタが国王陛下を敬愛してるのは良くわかったから」 延々と続きそうな銀朱の国王賛美をひらひら手を振って遮って、救世主は歩き出す。 まだ言い足りなかったが、もはや聞く耳を持たない救世主に何を言っても無駄と悟った銀朱は、 溜息を一つ零すと彼を追い、隣を歩く。 「おい」 「何?タイチョー」 救世主に追いつくと、銀朱は彼に声を掛けた。 それから少し躊躇って、でも自分を見返す救世主の瞳をしっかり見て言う。 「誕生日おめでとう…どんな結果であれ、俺はお前と出逢えて良かったと思う…」 それから赤くなった顔を背け、照れ隠しのように 「苦労させられる事も増えたがな」 と付け加える。 救世主はその言葉に驚いたように目を見開いて銀朱を見ると、柄にも無い事を言っている自覚はあるのか、 銀朱はむっつりと黙り込んで所在無さげに視線を泳がせている。 そんな銀朱に救世主は子供のように笑った。 ―――この時代に生まれ変わった君に 誕生おめでとう――― |
K家姉 妄想日時:’08.3.18 妄想場所:自室 祝ってない!祝ってないよ!俺!! ホントはBLオンだったのはココだけの話………そして、結論は(大)が出して、 銀朱は相変わらず振り回されるハズだったのは、もはや過去の事(遠い目)。 どうしていつもままならないのかねぇ(苦笑)。 今回は弱い(大)を書く予定じゃなかったのになぁ………orz しかも今回も無駄に長くなったりそうな所を省略してみたり。 SSを書いとんのじゃー、小説を書いてるんじゃねぇ(笑)。 そんでも予定よりずいぶん長い話になってしまいました(^^; (大)とこはなは明確な誕生日が設定されていないので、花白と一緒にお祝いしてみました。 |