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花帰葬 |
| 08.3.25 |
| день рождения〜партия〜 |
花白は不機嫌だった。 ここは彩の城。 今日は自分を含め救世主達の合同誕生パーティが賑々しく催されている。 滅多に着る事の無い白い軍服は、公式の場での正装だ。 片手にシャンパングラスを持って、逃亡防止の為白梟の傍らに立たされている。 先ほどから次々と挨拶に訪れる人々は、高官だか貴族だか何だか知らないが、顔も名前もわからない輩ばかり。 こんな奴等に形式だけ祝辞を述べられても、嬉しくもなんとも無いのに。 だが、花白は今日の主役の一人で、群がる人々に囲まれていては逃げることも出来ない。 「どうでしょう、家の娘と婚約だけでも」 「当方の領土はそりゃあ素晴らしい湖がありましてな、救世主様も是非に避暑にでも」 あーはいはいと聞き流していると、客の話に笑みを浮かべて相槌を打っている白梟に脇腹を肘で小突かれて、一生懸命愛想笑いを浮かべる。 まるで後ろに目があるみたいだ、と心の中でぼやきながら。 なんでお祝いされてるのに、僕がこんなに疲れなきゃいけないんだよ!! 玄冬の住む群の山小屋に逃げ込もうとも思ったが、転移装置を取り上げられ、部屋の扉や窓の下、 城門まで厳戒態勢で兵達に監視されていては、さすがに脱走も難しい。 殴り倒して追っ手を振り払う手も考えたが、結局実力行使に出る間もなく当日。 こうしてパーティ会場に引きずり出されてる。 代わる代わるやってくる人々は、皆一様に『救世主』の地位や立場を利用しようとする者達ばかりだ。 特に縁談話には辟易する。 僕にはまだ早いですから、とか、未熟者故まだそのような事は考えられません、とか、異口同音のセリフを繰り返し、ついには喋る元気も無くなった所で、たまたま客足が途絶えた。 今がチャンスと、白梟の目を盗み、テラスへと向かう。 まだ肌寒い季節ではあるが、このサルーンは桜の庭園に面していることもあって、テラスを開放し、ランタンで照らした夜桜で客の目を楽しませている。 貴婦人淑女に囲まれて軽薄に談笑している大きい救世主や、ご馳走に夢中になっているこはな、軍のお偉いさんであろうか、厳つい紳士と気難しい顔で頷き合っている銀朱を横目にあと少しで外に………。 とん っと肩がぶつかって、心の中で舌打ちする。 「すみません」 謝罪を口にしながら、視線を上げる。 まず仕立ての良い黒い礼服が見えた、次いで… あれ? 細い顎、気難しげに結んだ唇、どこかほっとしたような深い蒼の瞳… 「くっ…」 極めつけのこの馴れ親しんだ気配(くうき)。 「玄冬っ?!」 我ながら頓狂な声が飛び出て、慌てて花白は自分の口を両手で塞いだ。 この城でその名はタブーだ、ましてや救世主が口にするなど何事かと思われる。 花白は周囲をキョロキョロと見回したが、幸い今のは誰にも聞かれていないようだった。 今度は慎重に、声を潜めて目の前の玄冬に声を掛ける。 「玄冬っ!どうして君がここに?」 「お前の誕生パーティがあると招待を受けてな」 着慣れぬ正装が馴染まないのか、はたまた見知らぬ社交界に戸惑っているのか、所在無さげに玄冬は言った。 「…というのは建前で、本音はお前のお目付け役、ということらしい」 脱走防止のな、と溜息混じりに付け加える。 なるほど、花白にとってこれほど有効な檻はあるまい。 彼にとっては玄冬の側が自分の居場所なのだ。 現にたった今までの脱走計画など既に意識の外になっていた。 代わりに玄冬の姿をマジマジと眺めている。 不ぞろいの髪は撫で付け綺麗に整られており、普段はもっさりとした外観に埋没している整った容貌が露わになっている。 長身の肢体に纏う礼服は堅苦しいが、同時にストイックな色気も感じさせた。 姿勢良くグラスを片手に立つその様は、なるほどご令嬢方の興味を惹かぬわけも無い。 今も遠巻きに品定めの視線を痛いほどに感じている。 どちらのご子息かしら。素敵な方ね。まぁ、救世主様よ。救世主様ともお近づきなのかしら。 耳を澄ませばそんな囁き声も聞こえてくる。 むぅっと花白は不機嫌を露わにすると、玄冬の腕を引いて庭園に降りた。 「お…おい…花白?」 「大丈夫、ここはまだ会場内だから」 突然の花白の行動に驚いたのか、はたまたお役目を全うしようとしているのか、名を呼ぶ玄冬にそう答えて、花白は人目の少ない一画で足を止めた。 「…いいのか、主役のお前がこんな所に居て」 「いいんだよ、どっちみち人に酔っていたから息抜きしに来るところだったし」 その言葉の通り、花白は深く長く息を吐く。 それから、きっと玄冬を見上げて詰め寄った。 「何で来てるんなら声を掛けてくれなかったんだよ。それにどうしたんだよ、その格好。女の子に誘われなかった?」 矢継ぎ早の問いかけに、玄冬は丁寧に答えていく。 「お前はずっと他の奴等に囲まれていたからな、声を掛けられなかったんだ。 この服はいつだったか黒鷹がこっそり俺のクローゼットに入れていたんだ。こういう服は着る機会がないと言っていたんだがな。 まぁ、最終的に城の奴等に仕上げられたが。 女性は何人かに声を掛けられたが、ダンスも話題も知らない俺が相手できると思うのか?」 見ず知らずの男性に自分から声を掛けるなんて、恥知らずな令嬢もいたものだ、と花白は憤慨した。 通常は男性から声を掛けられるのを待つか、他の人に仲介してもらって繋ぎを得るのが淑女のマナーだ。 まぁ、玄冬が自分から声を掛ける訳もないし、仲介と言っても会場には精々自分と大小救世主や白梟、 銀朱くらいしか旧知の人物はいないから、無礼を承知で自ら声を掛けたのであろうが。 何にせよ何事も無かったようだと一安心した所に、続いた玄冬の言葉で花白は仰天した。 「ああ、男にも何人か誘われたな」 「な…っ!!何だってぇーーーーーーーーっっっ!!」 今度は周囲に人も居ないため、遠慮なく声を上げた。 礼服に皺をつけるのも気にせず、花白は玄冬に縋り付く。 「ちょ…玄冬!何もされてないよね!!」 「ああ…いきなり契約書を出された時はどうしようかと思ったがな」 「契約書ってなんだよ?!」 まさか愛人契約か?とまで発想が飛躍した花白に、淡々と玄冬が答えた。 「兵にならないかと声を掛けられたんだ」 … … … 「ぐ…軍の勧誘…?」 「ああ、いいガタイをしている、と言われてな」 礼服を掴んだまま花白は脱力した。 いやいや、軍にはその手の輩も多いと言うから要注意だ。 「…念のため確認するけど断ったよね」 「当たり前だ。丁度隊長がやって来て、既に自分の隊に所属が決まっていると言ったら、諦めてくれた」 「そう…良かった」 良くやった、銀朱!と心の中で調子良く花白は銀朱を褒めた。 「ところでそろそろお前は行かなくてもいいのか?主役なんだろう」 「う〜」 お目付け役としての務めを全うしようとする玄冬の言葉に、花白は不満げに唸った。 本当はこのまま二人で逃げたい気もするが、頑固な所がある玄冬を動かすのは一苦労なのは目に見えている、 というか身に染みている。 社交界に不慣れな事を利用する手もあるが………。 瞬間的に思考を巡らせる花白の目の前に、何かが降って来た。 夜風に吹かれて桜の花びらが舞っているのだ。 花びらに誘われる様に、玄冬も仄かな灯りに浮かび上がった桜の木々を見上げた。 しばし二人で言葉も無く、はらはら舞う桜の花弁の中、立ち尽くす。 沈黙を破ったのは玄冬だった。 「こんな風に夜に桜を見るのは初めてだ」 溜息を吐くようにそう呟いた。 基本的に大きな街でもない限り、夜に街灯を灯したりはしない。 ましてや、ただ桜を照らすためにこうして灯を点すなど、祭りでもなければ有り得ない贅沢だ。 群の山中から殆ど出たことが無い玄冬が、始めて見たというのも道理だった。 例年桜の季節には、こうして夜桜を楽しむ彩の城に長年住んでいる花白には、見慣れていると言うほどではないにせよ、 珍しくも無い光景であったが、目を奪われている玄冬に誘われるように、改めて夜の闇に浮かび上がる満開の桜を眺めた。 素直に綺麗だと思った。 かつては光溢れる昼下がり、桜吹雪舞う美しい光景の中、美しい人を美しいだと感じていた自分が確かに居た。 それがいつからか、自分の周りにある美しいものを美しいと思わなくなっていた。 この夜桜も、見るたびまた憂鬱な宴が開かれるのか…と溜息の対象にしかならなかった。 だが、こうして玄冬と二人で世界を眺めていると、全てのものが色を取り戻し、感嘆の息を漏らさせるほど、 綺麗なものに変わっていく。 それに… 花白は視線を桜から隣に立つ玄冬に移す。 光で色を失った白い花びらが、黒い影に降っている。 魅入られたようにただ桜の木を見上げている玄冬は何より綺麗だった。 綺麗なものを綺麗と感じる心と、綺麗な玄冬。 誕生日のプレゼントには最高の贈り物だ。 幻想的な光景に心奪われていた花白の耳に、宴の終わりを告げるラストワルツの楽曲が聞こえてきた。 さすがに主役たる者、姿を見せないわけには行くまい。 名残惜しげに視線を彷徨わせ、花白は玄冬に言った。 「今日は泊まっていける?」 「ああ、俺は構わないが…」 「じゃあ、ここにいて!絶対動かないで!」 既に庭園に降りている者は居ない。 人々はサルーンの方に集って、最後のダンスに興じたり、別れの挨拶を交わしたりしているのだろう。 ここなら、衆人に玄冬を晒す事も無く、とりあえずは安心して役目を務めていられる。 さすがに来客の見送りの際には終止玄冬に変な虫がつかないか注意を払うのも難しいし、 何より主役である自分の側が一番人目につく。 「あ…ああ」 花白の迫力に、もはや反射的といった体で玄冬は頷いた。 よし、と一先ず安心して、花白はサルーンへ足を向ける。 その花白に玄冬が声を掛けた。 「花白」 振り向くと、夜の闇に溶け込むことなくそこに立つ玄冬の姿。 「遅くなったが、誕生日おめでとう」 花白は目を見開いて玄冬を見た。 言い慣れていないのだろう、照れながら…だがそう言える事が嬉しいのだと言う様な玄冬の言葉に、 自然に笑みが浮かぶ。 それは誰よりも欲しくて、誰よりも嬉しい言葉だった――― |
K家姉 妄想日時:’08.3.20 妄想場所:自室 いろいろ未熟で説明不足のところがあるけれど、まぁ、それはさておき 正装の玄冬を想像するのは、非常に楽しかったですv そして、1箇所、どうしても適切な表現を思い出せずに誤魔化しているところがあったり… 後でこそっと直ってるかもしれません(苦笑) |