花帰葬
         
07.3.25      
 お家へ帰ろう

どこまでも続く長い長い城の廊下。そして外へと繋がる回廊。
城という鳥籠のような牢獄。
「こら!待てっ!花白!何故逃げる!?」
「お前が追い掛けてくるからだろ!第一、待てと言われて待つ馬鹿が何処にいるんだよ!?」
「何ぃ!?」
その牢獄の中、外へと逃れるために花白は無我夢中で走り回っていた。
それを追い掛けるのが第三兵団銀朱隊隊長、銀朱の役割となっていた。
と言っても誰かに命じられた訳ではない。これは銀朱自らの意思であった。
「おい!貴様ら!あいつを…花白を止めろっ!」
「はっ…はい!」
「ちっ」
人海戦術で攻めようとするが、城内のそこら辺にいる兵達に花白が捕まえられるわけはないと思っていた。
「お待ち下さい!花白様!」
「止まって下さい!」
「ヤだね!」
「あっ…!」
兵達は花白の前に立ちはだかっても、本気で手出しなどしない。
せいぜいが、仁王立ちで両手を広げ通せんぼして「止まって下さい」と願い出るくらい。
何故なら花白はこの世界の滅亡を唯一止められる力を持つもので、銀朱よりも事実上の立場は上なのだ。
本気で取り掛かれるのは銀朱と花白を守護する白の鳥くらいだ。

「何で今日はそんなにしつこいんだよ!?」
「何でだと!?」
花白が授業や役割を抜け出してサボるのは日常茶飯事。口では厳しいことを言っても止めきれないのが 銀朱であった。
だが、どうしても今日は花白を逃がす訳にはいかなかった。

「悪いね銀朱。お前に捕まる程僕は馬鹿じゃないよ!」
「何!?」
花白は銀朱の一瞬の隙を突き、救世主の剣を光らせ、そこに太陽の光りを反射させた。
「うっ…」
あまりの眩しさに目を閉じる銀朱。
「じゃあね」
「はな…しろ…っ!!!!!」
微かにでも目を開こうとするものの、あまりの眩しさにそれもかなわなかった。
目が開いた時には花白は既にどこにも見当たらなかった。

「何なんだよ…アイツ。今日はホントにしつこいな」
城から少し離れた所にある丘の木陰に寝転がり、花白は空を見上げて呟いた。

「ふぅ…」
小さく息を吐くと、そよそよと気持ちのいい風が吹き抜けた。
目を閉じると木々の間を風が擦り抜け、木葉を揺らす音に、鳥のさえずりが聞こえてくる。
やっと訪れる安息の時。
「見つけたぞ、花白」
「えっ!」
聞き慣れた声に反射的に目を開け身構える。
そこには銀朱が立っていた。
どうやって逃げようかと画策する花白のすぐ横で銀朱が動く。
「ふぅ」
息を吐き、花白の隣りに腰を下ろす。
「………よくここがわかったね。アンタにしては頭つかったんじゃない?褒めてやるよ」
「お前なぁ…」
小言の一つも言ってやろうと思ったが飲み込んだ。
「お前が小さいとき、父上と俺とお前で何度か来たことがあったよな、ここ」
「…覚えてたんだ…」
「当たり前だ。…ここは変わらないな。いい場所だ」
「ふーん…第三兵団の隊長自らサボり?いいの?」
「俺はやることはちゃんとやっている!!!!!!」
思わず反論してしまった。
しかしここで説教を始めると、折角見つけたのにまた逃げられてしまうと思って、それは我慢する。
「逃げるなよ、花白」
「…わかったよ」
納得いかない顔をしながらも承諾する。
「何で今日はこんなにしつこい訳?」
「何でって…何だお前。まだ気付いていないのか」
銀朱の口元から笑みがこぼれる。
「何なんだよっ!」
「……ほら」
「何だよコレ?」
銀朱に差し出されたのは小さな紙袋。
「開ければわかる」
照れ臭そうに言う銀朱。
変なの。と思いながら紙袋をあけると、中から手袋が出てきた。
「え?」
「まだわからんのか、お前は!」
「手袋くらい知ってるよ」
「そうじゃ…なくて…」
「じれったいなぁ。ハッキリ言えよ」
「今日はお前の誕生日だろうがっ!!!!!!!!」
銀朱の一言に花白は一瞬思考が停止する。
そして自分の誕生日を思い出す。
「ちょっと待ってよ!じゃあ何?今日散々追い掛け回されたのは僕の誕生日を祝うためだって言うの!?」
「お前…何だと思って逃げていた…」
(自分の誕生日も恋人の誕生日も忘れてしまうようなヤツが…)

そう思ったら何だか可笑しくなって花白は笑った。
「それでな、花白…今夜家に来ないか?父上がお前の誕生日だから皆で食事をしようと言っていてな。 妹達もケーキを作ると言って張り切っていた」
「え…いいの?」
「何を遠慮することがある?」
銀朱は立ち上がり、服に付いた草を払う。

(花白、お前だって…俺の…弟みたいなものなんだからな)
小さいときからずっと兄弟のように、ライバルのように育って来た花白。
銀朱は家族の誕生日同様、花白の誕生日は忘れた事はなかった。
「そこまで言うなら…行ってやるよ」
「素直じゃないな…お前」
そう言いながら手を差し伸べる。
花白の手を引いて立たせてあげた。
そして一緒に城へと歩いていく。

銀朱の家の戸を開けると料理とケーキの甘い匂いが花白を出迎えてくれることだろう。
そして今日、皆に祝福されて花白はまた一つ、年を重ねる。


玄冬と出会う少し前の春の日の出来事。




K家妹
妄想日時:’08.3.14
妄想場所:自室

イメージは童謡「森のくまさん」(笑)
♪ところが銀朱が後からついてくる「こら待て花白ぉーっ!こら待て止まらんかー」♪
自分の誕生日も恋人の誕生日も忘れるような男だが家族と花白のだけは覚えてそう。
夜まで騒いで銀朱のベッドで寝るんだろうなぁ。
仲良し幼なじみによる誕生日のお祝いでした!