花帰葬
         
08.10.26      
 未来へ

「ねぇ玄冬。こんな感じでいい?」
「あぁ十分だ」
「うーん…」
「つまみ食いするなよ」
「しないよっ」
丸いスポンジケーキに玄冬が白くて甘いクリームを塗り、花白が色とりどりのフルーツを飾り付ける。
「ねぇ玄冬…」
「なんだ?」
「こんな事していいのかな…許されるのかな…」
完成したケーキを玄冬が箱に入れてラッピングする。
その様子を見ながら切なげに呟く花白。
「何かしたいって言ったのはお前だぞ?」
「それはそうなんだけど…」
花白の脳裏に涙を浮かべ怯えた顔の少女の姿が浮かんでくる。
涙を浮かべ青い顔で、まるで怪物でも見るかのような顔で真っ直ぐ自分を見ていた顔。
父を呼ぶか細い声。
「…っつ!」
それを振り払うように目を閉じ首を振る。
「簡単に消えはしない。だが何もしなければ何も変わらない。…違うか?」
「…うん」
「お前は必死だった。だが悪意があった訳ではない。…違うか?」
「…うん…」
自分の気持ちをわかってくれる身近な存在の言葉と言い様のない気持ちで花白の目頭が熱くなった。
「許してもらおうなんて考えるな」
「そうだね」
「ほら、行くぞ」
「あ…うん!」
ケーキを持った玄冬が外出の支度を整えて立っている。
花白は遅れないように立ち上がる。



懐かしい街。
少し前玄冬と花白が訪れた街。
その時と違うのは雪が降っていないことと玄冬の記憶が戻っていること。

「家の中にいるみたい」
「そうか」
玄冬はとある家の玄関に持ってきたケーキと小さな包みを置いた。
「玄冬、それ何?」
「ちょっとな。それより本当に手紙も入れずにいいのか?」
「いいんだよ。嫌な思いさせたくないし」
「そうか…」
花白は玄関のドアをコンコンと二回叩いた。

「はーい!」
女の子が玄関を開けるとそこには誰もいなかった。
「あれ?」
キョロキョロと辺りを見回すが誰もいない。
変なの。という顔をしてドアを閉めようとすると、箱と包みを見つけた。

「何だろう…」
不思議に思いながら箱を開けると、そこには果物が沢山乗っているデコレーションケーキが入っていた。
「うわぁ…!」
ケーキを見て驚きながら喜んだ。
ケーキにはウサギとクマの砂糖菓子も乗っている。
「…これ…」
女の子は何かを感じ、小さな包みを開けてみる。
すると中には女の子が大好きな林檎の甘煮が入っていた。

「希沙!?誰が来たんだい?」
家の中から父親が尋ねる。
希沙は笑顔で見知らぬ人物からのプレゼントを抱き締めてから父親に向かって言った。

「旅するウサギさんとクマさんが希沙の誕生日と好きなもの覚えていてくれたの…!」

そして誰もいない外を見て「ありがとう…お兄ちゃんたち」と呟いて家の中に入っていった。


花白は帰る道程、希沙の事を思い出していた。

(ごめん。キミに消えて欲しかった訳じゃないんだ。キミが生きていてくれて僕は…本当に嬉しいから…。救われるから僕は…)

「あ」
「どうした?」
「玄冬。やっぱり思い切ってやってよかったかも」
「…。そうか」
行くときと違い笑顔の花白に玄冬の顔も笑顔になる。

(だって今思い出せるキミの顔は…笑顔だから)

玄冬も花白も心から思った。失わずに済んだ一人の少女の時間に。


誕生日おめでとう。
生きていてくれて嬉しいよ。




K家妹
妄想日時:’08.5.24
妄想場所:自室

希沙の誕生日ですがあっさり書けて良かったです!
希沙を祝いながら花白を救済してみました。
実はK家妹、希沙も好きですよ〜