花帰葬
         
08.4.26      
 Greatful Days

はらりはらりと花びらが降る。
その木の下でくろとは探し人を見つけた。
よほど熱中しているのか、くろとに気付くことも無く土遊びをしている彼は、木の根もとの土を集めて土台を作り、 それを花や木の実で飾り、小枝を刺している。
一通り形の整った土の塊に満足したのか、泥にまみれた手で彼は額の汗を拭った。
手の動きそのままに、額に土の跡が付く。
溜息をついて、くろとは声を掛けた。
「はなしろ」
「あっ!くろとっ!!」
呼ばれて漸くくろとに気付いたはなしろは、満面の笑みを浮かべてくろとを見た。
そのはなしろに歩み寄ると、くろとは懐にしまっていたハンカチで、はなしろの顔を拭う。
「泥だらけで何をやってるんだ、お前」
「えっとね、ケーキ作ってたの」
えっへんと胸を張って示すのは、先ほどまではなしろが一心不乱に弄っていた土の塊だった。
なるほど、それは綺麗なチョコレートケーキに見えなくも無い。
もう少し時間が経って土の表面が乾いてくれば、結局はただの土塊(つちくれ)に戻ってしまうのだろうけど。
「ね、くろと、こっち座ってーーーーっ」
はなしろがケーキを挟んだ向かい側の席を勧める。
言われるがままにそこにしゃがみこむと、満足そうにはなしろは笑みを浮かべた。
「くろとっ、お誕生日おめでとーーーーー」
「………………ああ…」
一瞬何を言われたのか考えて、くろとは合点がいった。
言われてみれば今日は自分の誕生日だった。
そういや朝から黒鷹がなんだかそわそわしていると思ったが…なるほど、そういう事だったのか。
自分のことには疎い…というよりも無頓着なくろとは、ようやくその事に気付いた。
と言う事は、たった今はなしろが作っていた土のケーキはバースディーケーキの代わりなのだろう。
確かに、ろうそく代わりに立てられている小枝の数は、くろとの年の数だ。
「ばかとりがさ、夜までくろとには内緒って言ってたんだけど、僕どーしても誰よりも一番最初にお祝いしたかったんだぁ」
黒鷹は子供絡みのイベントにはやたら張り切る方向がある。
今年は例年の事ながらくろとが自分の誕生日に気付かないのを良い事に、サプライズパーティでもするつもりだったのだろう。
最も、その企みは身内の裏切りによって脆くも崩れ去ったわけだが。
仕方ないな…と、くろとは溜息を吐いた。
黒鷹をがっかりさせないよう、夜にはちゃんと驚いてやるか。
そんな子供らしくない気遣いを思い巡らせて、くろとははなしろに言った。
「ありがとう、はなしろ。でも、この事は内緒だぞ、黒鷹が泣くから」
「ばかとりの事はどーでもいーけど、くろとがそう言うなら約束する。僕、くろととの約束は絶対守るから」
「ああ」
両手を握り締めそう力強く言うはなしろに瞳を和ませて、くろとは柔らかな桜色の頭を撫でた。
その髪に、何かが引っかかっているのに気付いて、そっと摘み上げる。
小房のままの花だった。
ゆっくりと傍らの木を見上げる。
そこにあるのは里の物より紅色の濃い、山の桜だった。
里では当に散ってしまった桜だが、割合標高の高いこの山奥では、今が見頃となっている。
この辺りには山桜はこの木一本しかないから、そこから一房、風に煽られたか何かで花が落ちたのだろう。
「わぁっ、綺麗だね、くろと」
「そうだな」
高い所に枝がある所為か、ちゃんとその花を見たことが無かったのだろう、はなしろが興味津々といった体でくろとの指先に咲いている花を覗き込む。
それから
「くろと、その花僕に貸して」
と瞳を輝かせてくろとを見上げる。
くろとがその花を差し出すと大切そうに受け取り、それをはなしろはくろとの髪に飾った。
「お、おい、はなしろ」
てっきりケーキに飾りつけるのかと思っていたくろとは、想定外のはなしろの行動に困惑した。
そんなくろとにお構いなしに、少し離れて全体を眺めたりしながら、はなしろは満足そうに頷く。
「わぁ、やっぱり似合う。くろと可愛いっ」
「………似合うわけないだろう。どっちかというとお前の方が似合う」
冷や汗混じりにそう言って、花を取ろうと手を伸ばした。
その無防備な一瞬に、はなしろはくろとの頬に口付ける。
思わずくろとの動きが凍りついた。
「は…はなしろ…」
「くろと、ほっぺたピンクで桜とお揃いだね」
土のケーキを跨ぐ様に四つんばいになり、はなしろはくろとに顔を寄せ、瞳を細めて笑みを浮かべている。
「うん、桜も綺麗だけど、くろとのがずっとずっと綺麗」
そう言ってしがみつく様に、くろとを抱きしめた。
はなしろのなすがままにしながら、くろとは天を振り仰ぐ。
紅色の花の向こうに青い空が覗き、梢の隙間から光が自分達に降り注いでいる。
くろとはこの美しい景色の中、そっと瞳を閉じた。
まるでその眼の中に、この光景を閉じ込めるように。
いつか今より手足が伸び、自分達の足でもっと遠くに行ける様になった時、きっと自分達の世界は広がる。
もっと沢山の人と出会い、もっと沢山の物を見て、自分達は変わっていくだろう。
だから綺麗な思い出を沢山覚えていたいと思った。
大人になった時、同じ気持ちでこうしていられるのか、ほんの少し不安になったから。
「なぁ…はなしろ」
ぽつりとくろとが呟く。
「お前、この世界好きか?」
「うん、大好き。くろとのいる世界だもん」
頬を摺り寄せてくるはなしろの仕草がくすぐったくて、くろとは小さく笑みを浮かべる。
ふと、その感覚が途絶えたと思ったら、今だ瞳を閉じたままだったくろとの唇に、何かが柔らかく触れる。
薄く眼を開ければ、眼を伏せて自分に口付けているはなしろの顔が視界いっぱいに広がった。
そっと唇を離すと、はなしろは花の様に微笑む。
「ありがとう、産まれてくれて…出逢ってくれて…そして僕を好きになってくれて、ありがとう」
ああ、とくろとは心の中で納得した。
美しい花より自分の方が綺麗だと言ってくれたはなしろの気持ちがわかったような気がした。
先ほど見上げた光景よりも、間近で微笑むはなしろの笑顔の方がずっと綺麗だと思ったから。
はなしろは真っ直ぐにくろとの瞳を覗き込むと、迷い無く言った。

「ずっと側にいるから」

まるで先ほどまでくろとが抱いていた不安を見抜くように。
それだけの言葉で、たった今抱いていた不安が淡雪のように溶けてゆく。
そしてくろとは理解した。

自分は一生はなしろには敵わない、と。





K家姉
妄想日時:’08.4.25
妄想場所:私邸

書いてるうちに何が書きたいかわからなくなってしまったという(滝汗)。
とりあえず某風様のセリフを言わせるかどうかは自分の中で散々葛藤しました。
結局ネタ勝ちということで…気付いた方はK家と握手(笑)。

こくろは明確な誕生日が設定されていないので、玄冬と一緒にお祝いしてみました。