|
花帰葬 |
| 08.4.26 |
| Prayer |
「やあ、誕生日おめでとう、玄冬」 朝の日差しの降り注ぐキッチンで、開口一番黒鷹はそう言った。 キッチンとダイニングを分ける扉の枠に肘を付き、寄りかかるように頭を支えている。 機嫌良くニコニコ笑みを浮かべる黒鷹とは対象に、玄冬は火元を向いたまま顔だけ黒鷹に向ける。 その表情(かお)はいつもの仏頂面だ。 「ああ、お早う黒鷹。顔は洗ってきたのか」 淡白な反応に、ガックリと黒鷹は頭を垂れた。 「き…君ねぇ。せっかくの誕生日なんだからもっとこうあるだろう」 「馬鹿言え、『玄冬(オレ)』が生まれた日だぞ。目出度いわけあるか」 「まぁ、そう言わないでくれ給えよ。じゃないと私が悲しい」 「…黒鷹」 決まり悪そうに玄冬が視線を逸らすと、黒鷹はふぅと息を吐いた。 「何はともあれせっかくの誕生日だ。何か欲しい物は無いかな」 わざと明るい口調で話を逸らすと、玄冬は考える間もなく即答する。 「もう少し大きいフライパンが欲しいな」 再び黒鷹は脱力した。 「待て待て、待ち給え。仮にも若人がそんな物を欲しがるのはどうなんだい。例えば服とかアクセサリーとか欲しい物は色々あるはずだろう」 「必要な物は充分揃っている。使いもしない物を欲しがるのは無駄というものだろう。収納にも限界があるしな」 「君は倹約好きの奥様かね…まったく…」 眉根を寄せて困った子だと言いた気に、黒鷹は玄冬を見る。 が、その割には楽しそうでもあった。 「仕方ないね。フライパンなら毎日君に使ってもらえるだろうし、何より君が喜んでくれるんだろう。精々焦げ付きにくい物を贈らせて貰うよ」 この箱庭(せかい)にはオーバーテクノロジーだぞー、決してタワシで磨かないようにとウキウキと黒鷹は語った。 玄冬の喜ぶ顔…いや、驚く顔を想像しているのだろう。 「しかし何でまたフライパン?それはまだ使えそうだが…」 ふと、思い当たって黒鷹はこれから使うために出したであろう、今まで使ってきたフライパンに視線を向けた。 そのフライパンは古くなっているとはいえまだまだ現役で使えそうに見えるのに、 穴の開いた鍋すら捨てられない玄冬には珍しく新しい物を欲しがるというのは、黒鷹にとって意外であった。 「ああ…」 同様に玄冬もフライパンに視線を向ける。 「最近育ち盛りで良く食う奴が頻繁に来るようになったからな。今までのフライパンじゃ小さいんだ」 その横顔が微笑んでいるように見えて、黒鷹はやれやれと肩を落とした。 可愛い我が子に悲しい想いはさせたくは無いのだが、随分と敵に肩入れしてしまっている玄冬に、この後に待ち受ける悲劇を想像して、 黒鷹は溜息を吐く。 まったく、あの子供も人の留守中に余計な事をしてくれたと思う反面、想定外のこの出来事に黒鷹は期待してもいた。 もしかしたら――― この子は惜しんでくれるのではないかと。 他を生かす為に…失われる為に生まれてきたと諦めていた自分の命を。 その時自分は……… 「黒鷹?」 「ん?どうしたんだい?」 思考の海に沈んでいた黒鷹は、思いがけず近くから声がして慌てて取り繕った。 玄冬が怪訝そうな顔で覗き込んでいる。 「いや、その、なんだかお前、嬉しそうだったから」 「おや、そうかね」 黒鷹はにっこりと笑みを浮かべると、玄冬の頭に手を置いて子供にするように撫でた。 「黒鷹?」 むっとした顔をし、それでもその手を振り払うでもなく、ただ声で不機嫌を露わにして玄冬は黒鷹に問いかける。 「私はね、玄冬。本当に君が生まれてきて嬉しいんだ。例えそれが君に辛い宿命を背負わせることになったとしてもね」 黒鷹は眩しそうに目を細めると、自分より目線の高い我が子を見上げる。 「そしてこんなに大きくなった。こんなに嬉しい事はないよ」 もう22にもなるんだなぁと黒鷹は感慨深げに呟いた。 玄冬は照れているのか居心地悪そうに視線を彷徨わせる。 ぽんぽんとその頭を優しくあやして、黒鷹は身を離した。 「沢山食べて大きくなりなさい、君も…ちびっこもね」 「いや、俺はもうそろそろ大きくならないと思うが」 まぁ、あいつは沢山食べるし反応も顕著だから作り甲斐はあるがな、と玄冬は言葉を続ける。 黒鷹はそんな我が子を柔らかく微笑みを浮かべて眺めた。 いつか、君が生まれてきた事を悔やまない日が来るように いつか、君が生まれてきて良かったと思える日が来るように そう、強く願いながら――― |
K家姉 妄想日時:’08.4.27 妄想場所:私邸 えと…あ…アウト…(締め切りが)。 ようやく今年の玄冬のBDが終わる………。 むしろフライパンネタだけが書きたかったというのはココだけの話。 いい話系にするつもりは最初(はな)から無かったわけで………。 タイトルは「祈り」って事で。 |