花帰葬
         
08.5.12     
 恋して夢見て

梅雨の合間の晴天の日

家にやってきたのは、大好きな玄冬に良く似た顔立ちのこくろちゃんだった

「あいつの使いで来た」
そう言ってこくろちゃんはバスケットをずいっと私に差し出す。
「え?玄冬から?」
私はこくろちゃんからバスケットを受け取って、覆い代わりの布をめくる。
そこにあったのは、焼きたてのポットパイだった。
「今日はお前の誕生日なんだってな。おめでとう」
そう言って、バスケットを持っていたのとは逆の手に握っていた白い花をくれた。
きっと話を聞いて、道のりの途中で積んで来てくれたのだろう。
優しいファルムの可憐な白い花は、とてもいい匂いがした。
「ありがとう、こくろちゃん。玄冬にもお礼を言っておいてね」
そう言って微笑みかけると、こくろちゃんはとても複雑な顔をした。
「………こくろちゃん?」
「お礼を言うのは待ったほうがいい。ところでお前、今、腹は減っているか?」
「え?お腹?」
今は朝ごはんも食べて、もうじきお昼という時間だから、何も入らないというくらいお腹がいっぱいなわけではないけど、空腹というくらいでもない。
そう素直にこくろちゃんに伝えると、こくろちゃんは何故か小さく溜息を吐いた。
「だったら、今、それを食べてくれないか?」
「え…?ええ、いいけど」
「悪いな。あいつに見届けて来いと言われたんだ」
「玄冬が?」
あいつが何を考えているのか、俺にはわからんがな…そう言って、こくろちゃんはもう一度溜息を吐いた。

天気がいいので、森に近い小さな草原でパイを頂くことにした。
膝にナプキンを敷いて、いくらか冷めたカップを手にする。
カップを包んでいるパイ生地にスプーンを入れると、さっくりと生地が割れて、中のスープと混ざり合う。
ふわりといい香りが漂った。
「いただきます」
そう言って、パイ生地と一緒にスープを掬う。
「………」
思わず手が止まってしまった。
「鈴音?」
「こくろちゃん………」
思わず助けを求めるように、こくろちゃんを見ると、こくろちゃんはまるで私の行動を読んでいたように、眉根を寄せる。
「これ、貝が入ってるの…」
「ああ」
ポットパイの中身は、魚貝類満載のクラムチャウダーだった。
きっと美味しいに決まってる…玄冬が作ったんだもの。
でも、そのスープを口元に持っていく勇気は無かった。
貝は避けようも無いほど、ぎっしりと、しかも時には細かくされて入っている。
ここまで入っていると、たとえそれを避けてももはやスープそのものが、貝の出し汁にしか思えない。
私は一匙スープを掬ったままの姿で、固まってしまったのだった。


「そうか、食べられなかったか」
こくろから鈴音の様子を聞いた玄冬は、どこかほっとしたようにそう呟いた。


「来年こそは………」
バスケットの底に隠されていた、玄冬の手作りケーキを食べながら、私は決意を新たにした。
「貝はダメ…いくら好きな人の言うことでも、あれだけは食べられない…けど」
正直言えば、貝類を克服するのは自分でも難しいってわかってる。
生理的嫌悪をもよおす物は、もはや食べ物として認識できるわけが無い。
それでも…
「恋する乙女の底力…見くびらないでよね」
いつかきっと食べられるようになってみせるから。

覚悟しててね、玄冬




K家姉
妄想日時:’08.5.9
妄想場所:私邸

ホントにタイトルにも苦労するほど内容が無いオチでした

ここまで読んでくれて、おつきあい頂きアリガトウございます。