花帰葬
文官×未来救世主         
08.6.1   
 逃げ場

「救世主さま!」
「よくやりましたね、救世主よ…」
「しっかりしろよ、救世主」
「救世主様!」
目を閉じただけで聞こえてくる。自分がいるべき世界でのみんなの声。

「救世主さま」
「………」
割と近い所で声が聞こえてきて、救世主はゆっくりと目を開けた。

「こら!待てっ、花白!」
「お待ち下さい花白様!」
「あなたは救世主なのですよ!?」
「悪いね、僕はもう救世主じゃないからさ」
走り回る桃色の髪。追い掛ける人々。
「………やっぱりね」
救世主は小さくため息をついて呟いた。

歯車が少しズレてしまっただけで本来いるべき時代よりも過去に来てしまった。
つまりこの時代、この世界では自分は「救世主」と呼ばれるべき存在ではないことくらい理解している。
それでも自分が「救世主」として生きてきた十数年も間違いない事実。
「救世主様」と言われればつい反応してしまうの仕方がない。
しかし…
「現実見ちゃうとツラいよね、やっぱり」
自分の鳥だと思っていた白梟でさえ、今は花白の鳥として収まっている。
周りの兵達も「隊長」も、未来の世界と何ら変わらないのに全く違うこの世界に違和感を感じる。
「何て言うか…寂しいナ。孤独っつーか…」
それまでは一人になりたくてもいつも周りに誰かがいて、周りがいう「救世主」としての期待に応えるべく「いい子」を演じてきた。
しかし花白は違う。そんな花白を羨ましくも思えた。

本来自分がいるべき世界にさえ居られればこんな気持ちは感じなくて済むのに…。そんな気持ちからつい言葉が口から出てしまった。
「オレも"お家"帰りたいなー」
「頑張っていらっしゃいますよ、救世主様も」
一人だと思って呟いた言葉に思わず返事があり、驚いて振り向くと、笑顔の文官が立っていた。
「いたんだ」
「はい。…その…すみません。通りかかりましたら救世主様が寂しそうな顔をしていましたので…つい」
「寂しそう…?」
「えぇ、とても」
見られた。そんな恥ずかしい気持ちと、わかってくれる存在に安堵する気持ちとの同居にどんな顔をしていいのかわからなかった。
「そんなに頑張らなくてもよろしいのですよ」
そう言って文官は優しく救世主の頭を撫でた。
「子ども扱い…しないでくれる?」
俯いたまま、口元だけで笑う。
「はい…子ども扱いはしませんよ」
文官は見逃さなかった。俯いたままの救世主の目元や頬に光るものがあることを。
朝露が葉筋を通り滴り落ちる時のような輝きを。
それでも救世主の自尊心を尊重し何も語らず、ただ傍にいた。
「あなたはとてもいい子ですよ。私はちゃんと見ていますから…。あなたはあなたのままでいいんです。どんなあなたも私は好きですよ」
「誰か来たら…」
「大丈夫ですよ。みんな花白様を追っていきましたから。それに…誰か来ても私が大きくて見えませんよ、きっと」
「借りはすぐ返すからな」
「はい、楽しみにしてますよ」


文官の言葉と存在は救世主にとって大きな安らぎとなった。




K家妹
妄想日時:’08.5.29
妄想場所:自室

未来救世主を弄びたい(類似語:受化して余裕を奪いたい)がためだけに突発で書いたSS。
いや…ムリヤリ捻り出した訳ではなく、ネタの神様が空から降らせてくれたんですよ?
本当ですよ?
文官、さすが歳の功。なかなかK家の文官はカプリングとしては報われない位置にいるので、
今回の話はちょっとK家的に珍しいかも(笑)