花帰葬
玄冬×未来救世主       
08.11.29       
 DAYBREAK’S BELL

荒々しく扉から乱入したその人物を、玄冬は呆然と眺めた。
普段から身に纏ってる白い衣服も、陶磁の様な白い肌も、入念に手入れされている桃色の髪も、今は茶に染まっている。
ぽたり…と落ちた雫が、床に染みを作った。
「くっそーーーーーーっっっ!!!!!」
泥水を滴らせている髪をかき上げて、救世主は毒づいた。
その様を眺めたまま、思わず玄冬の口から疑問が漏れる。
「………変わった格好しているな」
「好きでこーなったワケじゃねぇよ!!」
的外れな玄冬の問いかけに、救世主はイラついた声を上げる。
「そう…だろうな…」
「ったく…ヒヨコ達はどこだよ?!」
「外に行ったまままだ帰ってこないな」
ちらりと、開け放たれたままの扉の向こうに視線を向けて、玄冬は答えた。
はぁーと救世主は息を吐く。
「それで、どうしてそんな事になったんだ?」
ぽたり…と、絶え間なく救世主の服の裾や髪から落ちる泥水の雫を目で追いながら、玄冬は改めて問いかける。
救世主は舌打ちして吐き出すように口火を切った。
「群に遊びに行ったヒヨコを迎えに行くよう白梟に言われてさ、転移装置借りて来たは良かったんだけど… たまたま転移した先にチビ共が作った落とし穴があって、それに落ちたってワケ。しかもご丁寧に底には泥水が溜めてあって、足場悪くて中々出られなかったし…あーもーツイてねぇ」
普段人の分まで使っているのでは、と思うほど幸運に恵まれている救世主ではあるが、極稀にはこのような不運に見舞われることもある。
ある意味希少な瞬間を目撃した玄冬ではあるのだが、そんな有難みなど救世主の体から滴る泥水で汚れてゆく床の事を考えると、差し引きゼロどころかマイナスだ。
「そもそも花白が講義脱走を白梟にバレて外出禁止喰らわなきゃ、こんなところまで来る必要もなかったってーのに」
ぼやくように救世主が愚痴る。
そんな救世主に眉間を指で押さえながら、玄冬は溜息交じりで声を掛けた。
「とにかく風呂に入れ」
「え?マジ?風呂沸いてンの?!」
「あいつらが外に遊びに行くと、泥だらけで帰って来るから沸かしておいたんだ」
「アンタのコトは気に食わないけど、気が利くトコだけはさすがだって褒めとくよ」
じゃあ早速………と、救世主は玄冬の傍をすり抜けるように風呂場を目指し………たが、目的をすぐに達する事は出来なかった。
引き止める程度の力を籠めて、不意に玄冬が救世主の腕を掴んだからだ。
慣性に引きずられならも、疑問を籠めて救世主は玄冬を見る。
次の瞬間、救世主は自分の耳を疑った。

「脱げ」

唐突にそう玄冬に言われて、救世主の頭の中は一瞬で真っ白になる。

は?何言い出すの、熊サン

記憶を反芻しても、短く、けれどハッキリと告げられたその言葉は聞き違いようも無い。

ってゆーか、顔近いんですけど

腕を掴まれたまま、救世主は硬直している。
そのくせ、心臓だけがいつもよりせわしなく動いていた。
軽口も叩けなくて、ただ、救世主は探るように玄冬の深い青の瞳を見ているだけ。
当の玄冬はというと、困惑したように視線を救世主の足元にゆっくりと移す。
ぽたり
落ちた雫は床に拡がり、新たな染みを作る。
ぽた
ぽたり
ぽた
雫は救世主の髪や衣服から止め処なく落ちては、染みを拡げる。
これが雨に降られて濡れたのなら玄冬もここまで突飛な言動を取らなかっただろう。
問題はこの雫が泥水である、という一点だった。
腑に落ちた救世主ははぁと息を吐き、ようやく自分が動きどころか息まで止めていたことに気付く。
それから自分の勘違いに気付いて、一瞬で頬を朱に染めた。

って、ちょ…っ!俺っ!今、何考えた?!




ザァ………
救世主はただ呆然と自分の手を見つめた。
天上から降り注ぐ湯の雨は、手のひらに残った白濁の液を飲み込んで、排水溝に流れてゆく。

嘘………だろ………?

吐き出したものは次第に消えてゆくのに、本当に消し去りたい事実だけは、どうしようもなくただそこにあった。

何で………

ザァ………
耳朶を打つシャワーの音も、その熱さも、今の彼には感じなかった。
ただ、たった今の行為の名残で、いつもより荒い自分の呼吸だけが、いやに煩く感じる。
救世主は事実を否定するように、ギュッと固く眼を閉じた。

何で、熊サンと………なんて考えて、ヤれちまうんだよ?!!

落ちないかもしれないが、と前置きする玄冬に汚れた上着を預け、逃げるように風呂場に飛び込んで、彼は自分がとんでもない事態に陥っている事に気付いた。
先ほどの誤解の所為だろう。
彼の鋭敏なそこは、熱を持って起ち上がり始めていた。

いや、ありえないし………

そうは思うもののシャワーを浴び、体から泥を落としても、なお治まらないその熱に、思わず手を伸ばし………

百歩譲って、だ
怒りとか興奮でそーなるんならまだしも、何で………

『何で熊サンとヤってる自分』―――何て変な事を考えながらヤってんだよ、俺?!

ゴン!!と壁に頭を預ける。
湯が体を伝うくすぐったい感覚さえ、たった今の想像のせいだろうか、誰かの指のように優しく感じて肌が泡だつ。
再び目覚めようとする自身に気付いて、救世主は慌てて湯を冷水に切り替えた。
冷水に叩きつけられ、急速に体が冷えてゆく。
だが、冷え切った体とは反対に、頭はのぼせたように熱いままだった。
それと、玄冬に掴まれた腕が。
筋張ったその大きな手の感触を思い出して、玄冬に掴まれたそこに自分の手を重ねるように触れる。
確かに玄冬は良く見ると非常に整った顔をしているし、鈍いけれど妙なところで気が利くし、気に食わないけど放って置けないし、苦手だけど眼が離せない―――

「だからって、そもそもなんで俺が熊サンに押し倒されてんだよ………マジありえねぇー」

行為の最中に脳裏を巡った妄想に、言い訳するように声に出してツッコんだ。


「上がったか」
ドアを開けたら、そこに玄冬がいた。
思わず反射的に開けたばかりのドアを閉めたくなるが、それが逆に意識しているようだという事に気付き、ほとんど意地で踏みとどまる。
だが、玄冬が近付いてきた時には、何故か無意識に腰が引けた。
「ちゃんと温まったか」
恐らく本人には何気ない仕草なのだろう。
濡れたままの救世主の髪に、掬うように触れた。
そんな事で、ぞくりと背中に甘い電流が走り、頬が紅潮する。
「髪が冷たいぞ」
「さ…触んなよ!」
乱暴に玄冬の手を払い避け、救世主は距離を取る。
「悪かったな」
自分が救世主に好かれていないと思っている玄冬は、彼の癇に障ったと思ったのだろう、救世主の動揺に気付くことも無く背を向けた。
無意識のままに救世主が引き止めるような目で、玄冬を見ていることなど知らず。
玄冬はそのまま用意していたティーセットに向かい、良い芳香を漂わせる紅茶をカップに注いだ。
「とりあえず座って茶でも飲め。体が温まる。その内にあいつ等も帰ってくるだろう」
「あ…ああ…」
玄冬の言葉に自分がここにいる理由を思い出した。

そうだ…俺…ヒヨコを迎えに来たんだっけ

暗示に掛かったようにふらりと勧められた椅子に腰掛けると、目の前に紅茶を置いて、玄冬が台所へ姿を消す。
優しい紅茶の香りに包まれたまま、救世主はテーブルに両肘を付き、組んだ手に額を預けてそっと眼を閉じる。
気持ちが落ち着いてくると色んな事が思い出されて、次第に救世主の胸の内に怒りが芽生えてきた。

そーだよ、そもそも花白がドジ踏んで外出禁止を喰らわなきゃこんな所まで来ることも無かったし、 ヒヨコが落とし穴なんか掘らなきゃ泥をかぶることもなかったんだよ
やっぱアレかなぁ…今日のお御籤が凶だったからか、ツイてねぇのって

それは明らかな八つ当たりで。
しかもどうして自分があんな想像をしながら行為に及んだかの説明にもなってなくて。
だが、本能的に彼は言い訳じみた恨み言をただ並べた―――そうやって憤って誤魔化さないと、とんでもない事になりそうだったから。

気がつけば窓の外は赤味が増している。
夕暮れ時が近付いている証拠だ。

もーじきヒヨコ、帰ってくるよな
そうしたら城に帰って…そんで、きっとこんな気の迷いは無かったことになる…そうに決まってる

そう決め付けると、救世主はようやく自分を取り戻した…気がした。

それがどんなに強引な考えであるか気付かない振りをして―――




K家妹
妄想日時:’08.9.20
妄想場所:私室

ウチの玄救は、どうしても玄冬が大君を好きになってくれず、
大君が一人暴走して乙女化していく傾向にあります(苦笑)
カワイソウです。
でも、二人が出来上がったらこのCPは終わりのような気がして、
なかなか進展させられません。
困ったものです(笑)
しかも、通常版はあれほど強気なのに、玄救の大は銀朱にすら負けてます。
ガンバレ大君!K家は君の敵かな?味方かな?(ニヤニヤ)