花帰葬
         
08.6.14        
 Words of a liar

春告げの鐘が鳴る
アナタの望みを果たした代価に、アナタは俺の欲しい言葉を望むがままにくれる
そんな物に価値などないのに、俺は喜んでみせる
つまらない喜劇
でもアナタにとっては何度も繰り返した演目

ねぇ、白梟
アナタがこの箱庭[せかい]裏切られたのは何度め?

俺なら思うケドね、この世界に価値はあるのかってね

俺にはある
俺の周りにいる人達が呑気に笑っててくれるのなら、それだけでこの世界を続ける意味がある
でもアナタは?

ホントは知っているくせに、もうどんなに待ってもこの世界を創った誰かは戻らない事を

それでも繰り返す悲劇
嗚呼きっとアナタも黒鷹さんと同じ

―――きっとこの輪廻を止めてくれるものを待っている―――

そして『役目』を果たしてしまった俺は、きっとアナタにとって最早価値無き存在
俺はもう必要ない

なのに…
何故、みんな言うんだろう


「あの人を…一人にしないでやってくれ」


幼馴染みの言葉が誰かの言葉と重なる
あれは黒鷹サンだったかな…なんてぼんやりと考える
午後の執務室は春の陽が優しく差し込んでいた
それを背に、執務室で己の場所に座った隊長は言う
「あの人に、お前は必要なんだ」
由緒ある執務机に肘をつき、組んだ両手に額を預けている
その表情は見えなくても、彼が今どんな顔をしているかは声でわかった
伊達に長い付き合いじゃないし
「へーそう?」
対して俺は空虚なまでに軽く言葉を返す
「俺はやることやったし、もうこれで用済みだろ?」
「そんな言い方するな?!!」
部屋中に響く大きな音
ヤツは机の天板を叩いて、立ち上がった
あまりにも勢いが良かったもんだから、椅子が盛大にひっくり返る
「使命を果たしたのは白梟殿も同じだ!だからこそ、あの人にはもう、お前以外何も無いんだ!!」
怒鳴りながら俺に向かってやってくる
床が抜けそうなほど足音を鳴らして、そして俺の前で止まり、
盛大に、殴りやがった
「…ってぇ。イキナリなんて卑怯………」
「殴られるかな」って気はしていて、だから身構えてもいたハズなのに、俺は床へ吹っ飛ばされていた
それくらい、アイツは本気で殴っていた
「わからないなら…もう一発行くぞ」
目の前の隊長は怒ってるハズなのに、何故か泣きそうな顔をしていた
「………わかったよ」
ああ、そうだ、俺がガキだなんてわかってたよ
こんな方法で居場所を確認したかったなんて
「………甘ったれ」
「るせーよ」
お前がそう言って手を差し出すから、俺もその手を掴んだ
「言っておくが、俺の軍は本来お前のものなんだからな。逃げだそうったってそうは行かないぞ、 隊長」
「メンドーなのは全部アンタに任すよ、隊長」
「ふざけるな。グダグダ悩む暇が無いくらい仕事ならあるんだ。たった一つ終わったくらいで 全部が終わったと思うな」
そう言って鼻を鳴らす、幼馴染みの顔が赤い
何故かそれが可笑しくて、俺は声をあげて笑った
ああ、こんな風に笑ったのはどれくらい振りだったっけ
その時、樫の扉が鳴った
そのノックに応えて隊長が声をかけると、ゆっくりと扉が開く
「………っ」
「やはりここにいたのですね、救世主」
意外な事に、そこにいたのは白梟だった
「いつまでも隊長のお仕事の邪魔をするものじゃありません。お茶を淹れますから、部屋へいらっしゃい」
白梟はいつものように、綺麗な…けれども冷たい翆玉の瞳をこちらに向ける
ふと、その眼が怪訝そうに細められた
「どうしたのです、その頬は」
「あーちょっと………その…転んで」
我ながら苦しい言い訳
ったく、どうしたら転んで頬だけが腫れるっていうんだ、白梟だって気が付くに決まっている
認識したら、急に頬がジンジンと痛み出してきた
口の中も切っていたらしく、今更ながら血の味がする…チクショー、本気で殴りやがって
白梟はじっと俺の顔を見ると、不意に近付いてそっと、そのキレイな手で俺の頬に触れた
熱を持っていた頬にその手が冷たくて気持ちがいい
………こんな風に白梟に触れられたのっていつ振りだっけ
「痛いですか?」
「そ…そりゃあ、まぁ…」
「手当てが必要ですね。いらっしゃい」
白梟は俺の苦しい言い訳を信じたのか、それ以上何も言わなかった
代わりに有無を言わせない口調でそう命じる
俺は呆気に取られたようにそれに従うしかなかった
だから、俺を執務室から追い出した白梟が、隊長に向かって小さく頭を下げたのにも気が付かなかった―――


「ねぇ白梟」
前を歩く白梟に俺は声を掛ける
ったく、それだけの事にどれほどの勇気が必要なんだ
でも、これだけは聞いておきたかったんだ
甘ったれでもいい…今だけは
「俺、ココにいていいわけ?」
なんでもない風を装ったけど声が掠れている
「当たり前です。ここであなたが成すべき事はまだまだあります」
白梟は振り向きもせずに答える
違うよ、白梟
俺が聞きたいのは………
不意に白梟が立ち止まる

「この城も………私もあなたが必要なのですから」

こちらを向きもせずにそれだけ告げて、また何事も無かったように白梟は歩き始める

ねぇ白梟
それは俺が望んだからくれた言葉?
使命を終えた無価値な俺にも、欲しい言葉をくれるの?

それともそれは………

あなたの言葉?

立ち止まったまま動けないでいる俺に、白梟は振り返る
それはいつもの表情[かお]、いつもの瞳[め]、いつもの言葉[こえ]
だけども
「どうしたのです?………いらっしゃい」

そう俺を呼んでくれるから

俺は自分の場所を確認すると、いつものように笑って、その言葉に従った




K家妹
妄想日時:’07.10.15

思春期大君の話(笑)おま…っ!いい年して…とか言わないでぇぇぇ!!
次回はいつものノリを取り戻しますから。
ちなみに冒頭は死ネタまで発展したので、無駄に暗い…(苦笑)
でも結局軌道修正してみた。
いや、さすがに他にも鬱ネタ書いてたんで、自分でお腹いっぱいだったから。