花帰葬
花白×玄冬        
08.12.6         
 into the picture(12月)

くつくつと鍋が煮立つ音がする。
漂うのは甘い香り。
西日の差す台所のそれは穏やかで静かな風景。
それを食卓の椅子に腰掛けながら、花白はぼんやりと眺めていた。
テーブルの上に両腕を投げ出し、寝そべるように脱力している。
片頬に触れる堅い板の感触にも慣れて久しい。
足が所在無さげにブラつく。
傾いた太陽が暖かな橙色に風景を染め上げている中、花白の視線の先では何物にも染まらない 黒い背中が、せわしなく台所を行き来していた。
玄冬が夕餉の仕度を始めているのだ。
料理を始めると途端に玄冬は口数が少なくなる。
普段だって決して多くは無いのだから、もうほとんど会話は無いも同然だ。
だからこうして玄冬が料理する姿を眺めているのには慣れている、それにこのゲームにも。
花白は声には出さず、視線だけで玄冬に訴える。
こっち向いて、こっち向いて、こっち向いて―――
勝率は決して高くは無い、というか殆どゼロに近い。
こっちを向いたと思ったら、単に花白の背後にある食器棚に用事があったという事もあった。
当然それは勝率には入らない。
何故なら、このゲームの勝利条件は『料理よりも自分に夢中にさせる』事だから。
それも自発的に。
だから特別気を引くようなことはしない。
そもそも、困った事に花白自身もこの穏やかな光景を気に入っているため、壊したいわけでもない。

ああ、そうか

頭の片隅でカチリと小気味いい音がして、欠けていたピースが嵌ったような錯覚を覚えた。

ただ僕は
この完成された一幅の絵のようなこの風景に
混ざりたかっただけだったんだ

眺めている自分はあくまで傍観者。
その絵の中にいるのは玄冬ただ一人きり。
なのに玄冬自身はとても満ち足り幸せそうに見えて、自分は置いてきぼりを喰ったようで寂しかったの だろう。
幼稚な自分に思わず自嘲の笑みを溢すと、急に玄冬がこちらを向いた。
ドキリと心臓が跳ね上がったのは、不意打ちの所為ではなく、見透かされたと思ったからだ。
「何?」
あくまで平静を装い、玄冬の視線に応える。
「腹は減ってないか?」
「え?そりゃあ、まぁ…」
夕飯にはまだ早いものの、お茶の時間からそれなりに時間も経過している。
成長期の体はいつも栄養を求めていて、空いてるか空いてないかで言えば、
「小腹程度には空いてるかな」
「そうか」
その答えに、再び玄冬は鍋に向き直る。
そこから何かをよそって、花白の前に差し出した。
温かい湯気と共に、甘い香りが強くなる。
「だったらこれでも食って待ってろ」
器の中には南瓜と小豆を一緒に煮込んだものが盛り付けられていた。
花白の前にその器を置くと、玄冬は花白の向かいの椅子に腰掛ける。
どうやら料理は煮込む段階となり、一息つくことにしたらしい。
柔らかく煮られた南瓜の鮮やかな黄が食欲を誘う。
早速その小豆の絡んだ南瓜を口に運ぶ。
「!甘くて美味しい」
「黒鷹もこれは食べるんだ」
きっとあいつ、菓子の一種だと思ってるに違いない、と苦々しげに玄冬がぼやく。
ご飯だと食べないくせに、菓子だと食べるものも少なくない。
かといって野菜分を増やすと今度は菓子でも食わない、困った奴だ、と玄冬の愚痴は留まる事を知らない。
「偏食の子供か、あいつは…」
ちらりと玄冬が花白を見る。
うっかり反論しかけて、花白はグッと堪えた。
『偏食』である事には否定のしようも無いが、ここで反論したら自分が『子供』だと認めているような ものだと気付いたからだ。
もっとも目だけは恨めしそうに玄冬を見据えていたのだが、それはご愛嬌だ。
文句を言う代わりに南瓜を頬張る。
たった今まで煮込んでいた所為か火傷しそうに熱いが、殆ど噛む必要が無いくらい柔らかく蕩ける 南瓜と小豆の甘さに、いつしか機嫌も直ってゆく。
「でも本当に美味しいよ、コレ」
「そうか」
ふわり、と花が綻ぶように玄冬が笑った。
それは本当に嬉しそうに。
滅多に見ることが出来ないその静かな満面の笑みに、いつしか花白は食べる事すら忘れて見惚れた。
そう、料理をしている玄冬がいつだって幸せそうに感じてたのは、きっと美味しそうに食べる 誰かの表情[かお]を思いながら料理を作っているからだろう。

つまり、自分が入りたいと思っていたあの『絵』の中に
自分もいたのだ
料理を作る玄冬の想いの中に―――

料理に対する嫉妬心が驚くほどすうっと消えていく。
それを感じながら、わざと明るい声で玄冬に問いかける。
「ところでコレ、何?」
「知らないか?」
意外そうに玄冬は片眉を跳ね上げて、花白を見る。
「これは、冬至カボチャと言うんだ」
「トウジカボチャ…」
「今日は冬至だからな、冬至にこれを食べると風邪を引かないと言われている」
「へぇ〜そうなんだぁ〜」
「俺だけなら風邪をひく事もないから作る必要もないんだけれどな」
不意に玄冬はテーブル越しに長い腕を伸ばし、器を覗き込むように前かがみになっていた 花白の頭に触れる。
そのまま子供にするように撫でながら、玄冬は言葉を続けた。
「だから、これを食ったんだからお前絶対風邪を引くなよ」
無抵抗に頭を撫でられながら、花白は目だけで玄冬を見上げる。
「それって脅し?」
「ああ、特にお前は何をしでかすかわからないからな。雪の中に何時間もぼーっとしてたり…」
「あのねぇ!僕だって好きで雪の中に何時間もいたわけじゃないよ!」
優しく頭を撫でていた手を跳ね除けるように椅子から立ち上がって、花白は玄冬の方に乗り出す。
玄冬もまた、花白の頭を撫でるために身を乗り出していた為、お互いの顔が急速に近付く。
むぅっと頬を膨らませる花白に対し、玄冬は意地悪くくつくつと笑う。
その笑みが気に喰わなくて、それを止めるために花白は自らの唇で玄冬の唇を塞いだ。
ただ料理を煮込む鍋の音だけが、この静かな世界に聴こえる唯一の音だった。




K家姉
妄想日時:’08.12.5
妄想場所:自室にて

え?「冬至かぼちゃ」ってご当地料理なの?
結構みんな知らなかったり…しないよね?ね?!

途中から脱線し始め「ああっ!本筋に辿り着かない!!」というのを
むりやり軌道修正したという(笑)
つうか、書きたいトコだけならそんなに長くないという。

危うくこれも歳時記にならないトコだった…危ない危ない。