花帰葬
花唄         
08.3.3         
 桜の雨(3月)

「綺麗ね…」
小春日和の休日、彩紅と時雨は桜並木を歩いていた。
突然吹く春の少し強い風にゆられ、花びらが一斉に舞った。

「本当に綺麗だね」
嬉しそうに桜を見る彩紅を見て時雨も嬉しそうに笑った。
「雪が好きだって言ってたから…桜もきっと好きだろうと思ったんだ」
少し照れながら時雨が言うと、彩紅はふふっと笑って時雨を見た。

「桜なんて嫌いよ」
「えっ!?」
予想外の言葉に時雨は思わず声を上げた。
「桜なんか大嫌いって思ったわ。去年はね」
その一言で時雨は理由を知ることが出来た。
「私は家の都合で好きでもない相手と結婚しなきゃいけない。
…なのに桜はこんなに脳天気に綺麗に咲いてるんですもの。
頭にきて私…桜の木を蹴ってやったわ」
その時の感情を思い出したかのように、少し興奮気味に話す。
時雨はそんな彩紅の隣で恐縮そうに苦笑いを浮かべた。

今はどうなんだい?と聞こうとしたが、答えを聞くのが恐くて時雨は口を閉ざした。
「今は…」
「…え?」
まるで自分の考えが伝わってしまったかのようで驚いた。
「今は好きよ…桜」
その一言が何故か時雨にはとても嬉しかった。
「桜も雨も…もちろん雪も大好きよ」
そう言って彩紅は微笑んだ。

「私の名前の由来…桜からきてるのよ」
「彩の国花は桜で…桜は薄紅色だからかい?」
「そうよ」
「いい名前だと思うよ。キミに似て…その…綺麗な名前だと思う」
照れながら精一杯褒めたつもりだが、彩紅はまた笑う。
「何言ってるの。あなただって綺麗な名前を持っているじゃない」
「え?」

二人の間を風が駆け抜けていき、再び花を降らせた。

「ね、桜って私と貴方みたいよね」
彩紅の言葉を時雨は理解できずにいた。
第一時雨自身、自分の名前を綺麗だと思ったことなど一度もない。

「桜が散る時って…雪にも見えるけど…雨にも見えるもの」
「彩紅」
そんな少し強引にも思えるような理由だが、時雨にはとても嬉しかった。
そして自分の名を綺麗な物に変えてくれるのは、この世に彩紅一人だけだと思った。

「だから私…桜…好きよ」
そう言って微笑む彩紅。
「俺も…もっと桜が好きになったよ」
時雨はそう言うと彩紅を優しく抱きしめた。
花が風に吹かれてまた散った。




「彩紅、今年も綺麗に桜が咲いたよ」
時雨は一人桜の降る場所で呟いた。
「一人にしてすまないね。だが…ここにはいつも俺もいるよ」
舞い散る桜が雨のようだと言った彩紅の言葉を思い出す。
「そうだろ?彩紅…」
時雨の立つ前には彩紅が眠る石。

突風が吹き、一斉に沢山の桜が散る。
「本当に…キミは桜そのものだよ。とても綺麗でいつまでも見ていたいのに…はかなく散ってしまう」

桜の花弁が一枚、時雨の手の上に舞い降りた。
時雨はその一枚を大事に握りしめた。

「また…桜が咲いたら会いに来るよ…」
そう言ってその場所を後にする。

桜は名残惜しそうに風に揺れた。

桜並木を歩く時雨の隣にはあの日の彩紅の残像がいた。
「時雨。私…桜、大好きよ」





K家妹
妄想日時:’08.1.20
妄想場所:自室にて

電車男(テレビ)が始まる数分前に突然空から降ってきた話。
テレビ終了後書き始めて15分くらいで完了するくらいサクサク書けました(笑)
たまにはしっとりシリアスに。花白と玄冬登場させようとして没りました。