花帰葬
      
08.4.2          
 サクラサク(4月)

満開の桜の花が、ひらりひらりと花びらを舞い躍らせる、ここ彩の城。
演習場までの道程を、第三兵団所属の雨槻(うづき)と彼草(かれくさ)は、のんびり歩いていた。

「なぁなぁ、楽しみだなぁ、雨槻」
「はしゃぎ過ぎるなよ、彼草」
そわそわと落ち着きの無い彼草に、雨槻は溜息を吐いた。
「だってさぁ〜」
ひょいっと雨槻の顔を覗きこみながら、彼草はにいっと笑みを浮かべる。
「今年はどんな奴等が入ってくるのか、興味あるだろ」
今日は、新規団員の顔見せの日であった。
彼草は新しい顔ぶれを想像して、早くも浮かれているらしい。
かく言う彼草自身も、ほんの数年前に仕官したばかりで、ついこの間まで新米扱いをされていた身だ。
後輩が出来るというのは、それだけで嬉しいものなのだろう…実際はそんなにお気楽ではいられないのだが。
「さぁ〜て、今年は何人残るかなぁ」
わきわきと拳を握ったり開いたりしながら、意地の悪い笑みを浮かべて彼草は言う。
「やりすぎるなよ」
「わかってるって」
毎年、新入団員達は諸先輩及び隊長に地獄の洗礼を受ける。
それは組織として必要な行為であるし、覚悟を試す試用期間でもあった。
乗り越えてきた者達にとっては、まだまだ生温いくらいなのであるが、それに耐えられない者が例年少なからず居る。
その為、補充人員は多めに見積もってあるくらいだ。
特に隊長の指導には付いて来れない者が多く、去っていく新規団員の殆どが、隊長の厳しさに仕官を諦めた者達だった。

まぁ、隊長のお人柄を知れば、あの程度のしごきなんて耐えられるんだけどな。

仕官なんて夢を見てするものじゃない。
名誉職だエリートだと、期待と憧れを胸にいっぱい抱え、輝かしい未来だけを夢見てやって来た坊や達の幻想を打ち砕くのが、先輩として最初の役目だ。
その美しいステンドグラス級の色眼鏡を砕き、直視した先に現実がある。
それを見据えた上で、国や民や大切な人々を守る為に剣を取る事ができるかどうか。
特に第三兵団は当面の敵が消えた事により、平和で楽な隊だと思われている節がある。
まぁ、冬場になれば総出で城下の雪かきをしている辺り、呑気な隊だと思われても仕方ないが………。
本来『玄冬討伐』の為に特例的に設置された第三兵団は、『玄冬』の消失と共に解散かと思われていたが、 白の預言師の提言あってか、はたまた国王陛下のお気に入りだからか、存続を維持されたのみならず、人員の補充も認められ、こうして新入団員が配属された。
もっともただでさえ、少数精鋭の特殊機関なうえ、第三兵団は他の隊よりも退役率が低く、その分追加人員も他の隊に比べて著しく少ないのだが。
給金の良さや、そのネームバリューもさることながら、一般的な退役が少ない理由は、それだけで無い事を雨槻も良く知っている。

居心地がいいんだよなぁ。

最近は専ら『玄冬』よりも、それを倒すべき『救世主』に隊長共々振り回されている毎日であるが、溜息を吐きながらもそんな日常を楽しんでいる自分が確かにいた。

まぁ、そこに至るまでが分かれ目なんだけどな。

まずは当面の演習だ。
繰り返すが第三兵団は少数精鋭の特殊機関である。
配属される者達は、これまで士官学校でも優秀だと褒め称えられ、順風満帆に人生を歩んできた者が多い。
だが、自分が今までどれだけ狭い枠の中にいたのかを知り、自信を失い、挫折する者も少なからずいる。
まったく………と雨槻はこれから新規団員が味わうであろう苦渋を思って溜息を吐いた。

隊長は優しい方じゃないか、俺の時は灰名様だったぞ!

今だトラウマを残す自分の新人時代を思い出して、雨槻は春の陽気の中で寒気を覚えた。
………いや、忘れよう…あの頃の事は………。
「ん?雨槻、何だか顔色悪くないか?」
「………いや、何でもない」
少しでも下がった体温を取り戻そうと太陽に顔を向けると、燦々と降り注ぐ暖かな陽光にようやく人心地着く。

嗚呼、難関を突破し、狭き門を潜り抜けて我らが仲間と為りし君達よ。
君達の未来が少しでもこの春の日差しの様に穏やかで輝かしいものであるよう―――

「無理だな………」
「どうしたんだよ、いきなり。今度は何か悟っちゃったみたいに笑ったりして」
「何でもないって」
奇妙な雨槻の言動に不審がる彼草を誤魔化して、辿り着いた演習場の扉に手をかける。
もう、新しい隊服に身を包んだ彼らは集っているだろう。
緊張に体を硬くし、直立不動で。

穏やか?有り得ない。

何故なら我らは『第三兵団』なのだから。

「今年は何人か足の速い奴がいるといいな、あと素早い奴。ああ、捜し者が得意な奴とかも………」
「それよりも、耐久力だろう。最近また成長されて、キックが重い重い」
苦笑いを向ける雨槻に、彼草も合点がいったという様に、同様の笑みを浮かべる。
とりあえず、次に騒動が起こる時には、新兵器として投入できるくらいに育てねば。
「さぁ、いっちょ揉んでやるとしますか」
舌舐めずりをせんばかりに、瞳を輝かせて彼草は自らの手のひらに拳を打ち付けた。
「そうだな、そろそろ隊長もお出でになる頃だし」
常に15分前行動をする上官に先駆けて、演習場にやって来た側近二人は、光溢れる演習場への扉を開く。

その二人をからかう様に、風に乗った桜の花びらがふわふわと舞っていた。




K家姉
妄想日時:’08.4.1
妄想場所:自宅にて

4月ってあんまネタ無いのな………。つー訳で脇キャラにスポットライト(笑)。
しかも本編にいないキャラだよ、ドラマCD聴いてない方スミマセン(^^;
最初に書いた話は、どん底に暗くなったので、微妙なバランスをとりながら、なんとかここまで 晴れやか(?)な話に修正しました………これで明るいって最初どんだけ暗かったねん。
そして、この暖かな話をコタツで毛布に包まって書いているK家姉………(苦笑)。