花帰葬
      
08.7.3          
 Promised FORCE(7月)

「さぁーさぁーのぉーはぁ、さーらさらー…」
「ん?何やってんの?ちっこいの」
色とりどりの千代紙で何やら工作しているこはなに向かって、花白は声を掛けた。
それまで上機嫌に紙を折っていたこはなは、むっとしたように、花白を見る。
「お前には小さいって言われたくないー、自分だって小さいくせに」
「あいつと比べるなってーの。僕だってあと3年もすればあれくらい…」
「だったら僕だってあと8年もすれば今のお前くらいには大きくなるんだからなぁ」
睨み合うように二人は顔を見合わせる。
先に口を開いたのは花白のほうだった。
「………不毛だから止めよう、この話題」
「………うん」
「で、何してたわけ?」
「七夕の飾り、作ってたの」
こはなは出来あがった紙細工を、得意げに広げた。
あーと花白は天を仰ぐ。
「そういやそんな時期だっけ」
「そっ、だからお前も手伝いな、花白」
不意に背後から肩を抱かれ、勢いで前につんのめりながらも、花白は背後を見る。
予想通り、いつものニヤついた笑みを張り付かせた救世主がそこにいた。
一言文句を言ってやろうと思うよりも早く、救世主は花白から離れてこはなに向かう。
「笹、調達してきたぜ、これくらいでいいだろ」
「うん。ありがと、おっきいの、偶には役に立つね」
「偶に、じゃなく、いつも、だろ。モテる男は気が利くもんなの。…ん?どうした、花白、早くこっちに座れよ」
椅子に腰掛けながら、救世主はそう声を掛けた。
自分の意思を無視して、いつの間にか手伝う事になっている。
言いたい事は色々あったが、当然のように椅子に座って自分を待っている救世主とこはなに、 何だか自分だけむきになっているも馬鹿らしくなる。
結局、脱力するように溜息を一つ吐いて、花白は空いている椅子に腰掛けた。
「で、何すればいいわけ?」
「あ、んじゃ、短冊に願い事書こうぜ」
救世主の提案に、待ってましたとばかりに、こはなが短冊をそれぞれに配る。
「えっと、えっと………何書こうかなぁ。魔王玄冬になれますようにかなぁ」
「じゃあ、俺は…っと」
楽しそうに短冊に向かう、救世主とこはなの様子に、花白は溜息を吐いた。
「馬鹿みたい、こんなのに夢中になっちゃってさ」
「ん?何?花白、お前ノリ悪いね」
「ノリ悪いぞー」
手持ち無沙汰に短冊を弄んでいる花白に、二人が顔を上げる。
口にしたつもりは無かったが、ばっちり声に出ていたらしい。
決まり悪そうに、けど、はっきりと花白は言った。
「だって、こんな紙に願い事書いたって叶うわけないじゃん。それに僕、七夕嫌いなんだよね」
「あーーー………」
思い当たったように、救世主が声を上げる。
それから人の悪い笑みを浮かべると、ずいっと花白に顔を寄せた。
「なに?もしかして織姫と牽牛に熊サンと自分重ねちゃったりしてる?お前って結構ロマンチストなわけ?」
うっさいなぁーと花白は、面白がる救世主を睨み返す。
あえて身を離さなかったのは、何となく引いたら負けだという対抗心だ。
その二人の顔を交互に見比べて、こはなが言った。
「ねぇねぇ、それってどーゆーこと?」
「アレ?ひよこ、七夕の話知らないの?」
睨めっこに飽きたのか、救世主はくるりとこはなに向き直る。
そして、誰もがよく知っている七夕の物語を語り始めた。
「………そんで、二人を哀れに思った天帝は、年に一度、七夕の夜にだけ、天の川を渡って二人が会う事を許しましたトサ」
「ふぅ〜ん、なんだかいい話なのか、僕、よくわかんない」
「ま、全部が丸く収まってめでたしめでたし、ってワケにはいかないよな。 でも、やる事やらないでずっとイチャイチャしてたんだから、別に一方的に天帝が悪いってワケじゃないし、仕方ないんじゃね」
「それ、自分にもう一度言ってみたら」
半眼でジロリと救世主を見ると、救世主は心外だなーと大げさに肩を竦めるポーズをとる。
「俺はやることやってからイチャイチャしてるからいーんだよ。それに、タイチョーは根詰め過ぎだから、 たまに俺が息を抜いてやってるくらいでちょーどいいんだって」
ま、抜いてるのは息だけじゃないけど、と救世主は口元に妖しい笑みを浮かべる。
馬鹿げた事を抜かす救世主に、不意打ちで鉄拳をかまそうとしたが、拳はスカッと空(くう)をきった。
横目で見れば、紙一重で救世主が拳をかわしたのが見える。
その余裕の笑みが気に食わない。
見透かすようなその笑みを浮かべたまま、救世主は話を戻した。
「で?どーなワケ?ま、お前らが七夕の二人だったとして、どーせお前の事だ。黙って天帝の言う事聞くわきゃないよなー。 熊サンと一緒にいるーとか言って天帝ぶっ殺したり………」
思わず救世主は内心で舌打ちした。
こんなヘマをしたのは久々だったが、かといって口を出た言葉はもう元には戻らない。
その言葉を口にしたほんの瞬間、花白が酷く傷ついた顔をしたのに、救世主は気付いた。

―――まさか、お前、ホントにやっちまったって

あり得ない話ではなかった。
どころか、この「玄冬システム」を失った世界の意味を、少し考えればわかる事。
自分の浅慮に歯噛みしながら、フォローの言葉を探そうとした矢先に、花白が口を開いた。
「自分達を重ねてるとか、そーゆーんじゃなくてさ。自分達ですら自由に逢う事も出来ないくせに、 唯一恋人に逢える日に他人の願いなんか叶えてる場合じゃないじゃない。そもそも他人の願い事を叶えるくらいの力があるんなら、 まず自分達をどうにかしろって。そんなんに、願い事をするなんて馬鹿げてると思ってるだけだよ」
「あーーーたしかにーーー」
花白の言葉に、こはなが願い事を書いた短冊を握り締めて、しょんぼりする。
そのこはなの様子にさすがに自分でも大人気無かったと思ったのか、ペンをとりながら、花白が更に言葉を続けた。
「でも、ま、いいんじゃない。夢は自分で叶えるものって事で、年に一回くらいそれを書いて確認するってのはさ、悪くないと思うよ、うん」
そう言って短冊にサラサラと何かを書き出す。
そこには

―――玄冬とずっと一緒にいれますように

と、まさに花白らしい言葉が綴られていた。
それは「願い」ではなく「祈り」ですらなく、ただ「決意」。
自分がそれを叶えるのだという強い、だが一途な想いがそこにこめられている。
「こんな風にさ」
「うん!じゃあ僕も、僕も!自分の力で魔王玄冬に僕はなる!!んでもって、 世界を恐怖のズンドコに落とすの!!」
「ズンドコじゃなくてどん底だろ、ちっさいの」
二人のやり取りを傍観していた救世主は、ふぅーっと安堵の息を吐いた。
例え、その手に生々しく肉を貫いた感触が残っていたとしても、そこにその人がいて、時に眉を顰め、 時に微笑んでくれるのであれば、その「事実」そのものが失われる。
ほんの一瞬のあの表情以外、花白にはその事を誤魔化そうとか隠そうとかいう素振りは無い。
まるで、本当にそんなことが無かったかのように。
いや、「それ」は無かったことだ。
なら、その話を蒸し返す必要も無い。
「んじゃ、ま、俺はこんなトコかな」
自分の短冊に文字を書き連ねると、予想通り今度は足に攻撃が来た。
すっと、半歩足をずらすと、今しがた自分の足があった辺りの床を、勢い良く花白の足が踏みつける。
悔しそうに歯をきしませながら、花白は救世主を睨みつけた。
「ちょっと、止めてよね、そんな短冊飾るの!僕らの品性まで疑われるだろ!」
「えー、おっきいの、何て書いたのー?」
「小さいのは見なくていいっ!」
「ぶーーーー」
「何でー、お前の言ったとーり、決意を書いただけだぜ、俺は」
むきになる花白をニヤニヤ眺めていると、手元の短冊を花白に引っ手繰られた。
もとより、花白をからかうためだけに書いたものなので、あえて奪わせてやる。
「知ってるか、花白。七夕ってのは圧倒的に天気の悪い日のほうが多いんだぜ。そりゃそうだよなぁ、誰だってラブラブな所をジロジロ人に見られたくは無いだろーし」
そう言いながら、片手の親指と人差し指で円を作り、もう片手の人差し指をその円の中に出し入れするジェスチャーをする救世主の頭を、今度こそ花白はゲンコツで小突いた。
「このオヤジ!」
「っ痛ぇ〜!腕上げたじゃねぇか、花白」
大げさに痛がる振りをする。
わざと拳を食らったのは、先ほどの詫びだ。
「言っておくけどなぁ、七夕に願い事をするようになったそもそもは、織姫にちなんで手芸の上達を願ったのがきっかけなんだぜ。だったら、イチャイチャする2人にちなんで、こーゆーのももアリだろ」
「だからって、書いていい事と悪い事があるだろう」
「だったら、お前の短冊だって、人目に触れるには問題ありまくりだと思うケド?しかもそれを書いたのがよりにもよって「救世主」だなんて、大問題じゃねーの?」
う…と、花白は口篭った。
確かに、玄冬の伝承色濃い彩の城で、よりにもよって救世主たる自分が「玄冬と一緒に」なんて短冊を飾るわけにはいかない。
むぅ〜〜〜〜〜っと唸りながら、どんな風に書こうかと短冊と真剣に睨めっこを始めた花白に、してやったりと救世主は笑みを浮かべた。

―――やっぱりこーゆーバカ騒ぎはみんなでやらないとな

と。




K家姉
妄想日時:’08.7.1
妄想場所:私邸にて

マジメな話にするかほのぼのネタにするか迷走した結果、
書きたい事がわからなくなってしまった辺り、情けない。
色々小ネタを仕込んでますが、全部気付いた方はK家姉の同志です(笑)。
あと、やたら(大)がオヤジ化してるのは、書いてる本人に責任がありますので
ご容赦下さい(笑)。