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花帰葬 花唄 |
| 08.8.11 |
| 内緒話をしよう(8月) |
「悪いね、姉さん…いつも押し掛けちゃって」 「何言ってるのよ。遠慮なんかしないで。…さぁ、沢山飲んでね」 そう言うとテーブルにお酒を並べる。 「ありがと。…姉さんとこうやってお酒飲みながら語り合うの久しぶり」 「本当ね」 何か事ある度に彩紅と十季はお酒を酌み交わして言いにくい話を本音で語り合っていた。 こうやって二人でお酒を前にするのも何度めか…ふとそんな事が脳裏に浮かぶが、深く考えないようにする。 「あれ?姉さん飲んでないじゃない。どうしたの?」 「ちょっとね…禁酒してるの。でもあなたは遠慮しないで飲んで頂戴」 そして十季のグラスにお酒を注ぐ。 それから少し時が経った頃、程よく酔い始めた十季がふとした疑問を口に出した。 「姉さん程お酒強い人が…なんでまた禁酒なんかするのさ?元から毎日飲む方でもないのに」 「………」 十季に問われて彩紅は無言で俯いた。 その様子を見て「マズイ事聞いちゃったかな」と思ったが、口にしてしまった以上、後には戻れない。 酒の席の話だから悪く思わないでね。と心の中で前置きして続けた。 「何かあったんだね。…もしかして兄さんと何かあった?」 その言葉に反応する彩紅。 「やっぱりね。何があったのさ?話してよ…姉さん。協力出来る事があるならするから」 カタッ 突然席を立つ彩紅。 「本当?…時雨にも言わないでくれる?」 「う…うん」 十季の返事を聞くと、ほっとした表情を浮かべ、十季の傍まで移動する。 そして十季の耳に口を近づけると周りに人などいないのに内緒話を始めた。 彩紅の口が十季の耳元から離れると、十季はしばらく固まっていたが、彩紅の顔を見上げた後、 ガタッと椅子を倒して立ち上がった。 「姉さん…それ…ホント?」 未だ信じられないと言う表情で確認すると、彩紅は無言で頷く。 「…それが本当ならここでこんな所で飲んでる場合じゃないよ!ごめん姉さん、今日は帰るから」 一気に酔いから覚め、上着を取ると部屋を出ようとする。 「兄さん帰ってきたら…しっかりね」 そうエールを残して部屋を出る。 それから数刻が経ち、時雨が帰宅してきた。 何となく後ろめたいような気まずいような気持ちもあるが、それを押し殺して時雨の前に立つ。 「あれ?彩紅さん…今日はなんだかいつもと雰囲気違いますね。何かいいことありました?」 その言葉に少し戸惑う。 そして深く深呼吸をしてからこう切り出した。 「聞きたい?」 「え…ええ。教えてくれるなら是非」 「なら…耳を貸してくれる?時雨」 一体何があったのだろうと思いながら耳を傾ける。 精一杯背伸びをして彩紅は内緒話を始める。 「え?」 思わず時雨は聞き返してしまった。 彩紅の言葉が想像していたどんなセリフとも違っていたから、理解するまでに時間がかかった。 「だから…」 少し困ったような表情を浮かべながら、彩紅は再度背伸びをして繰り返した。 「私ね、子どもを授かったわ。…私たち、父親と母親になるのよ」 背伸びをやめて、時雨の顔を覗き込み、顔を赤くしながら微笑む。 時雨はまだ理解出来ずに固まっていた。 ただ、彩紅の「父親になる」という言葉がぐるぐると回っていた。 「あのー…こんな時、俺はどうすれば…」 「何よ、嬉しくないの?」 「い…いえ嬉しすぎて…この喜びをどう表現していいのか…」 「なら…褒めてくれる?…きゃっ!!!!!」 彩紅が言い終える前に時雨の両腕が彩紅を包んだ。 「ありがとうございます!彩紅さん!!俺…一生あなたを大事にします!!」 「大袈裟ね…」 そう言いながらも、彩紅の心は満たされていた。 確実にくるであろう幸せの日々を想像して… 「父親になるんだから…そろそろ敬語もさん付けも卒業してね?」 そして時雨の背中に両手を回して幸せを感じた。 夏の暑い日の事。 冬も春もまだ遠い先の話。 幸せを信じて疑わなかった頃の話だった。 |
K家妹 妄想日時:’08.2.3 妄想場所:K家姉宅 確実に普通の夫婦だった筈です。 子供が出来た事を喜び、将来の話をしたり期待に胸を膨らませ…。 花帰葬の舞台の裏にあるもう一つの切ないお話を書いてみました。 決して六月に雨が降って退屈だから子作りしたわけじゃないですからね! |