花帰葬
いきなりパラレル〜花帰葬のキャラが一つの家族だったら〜        
08.1.          
 ▼次男+四男『進路』

「う〜ん」

地の底を這うような呻きに、洗濯物を取り込み終え、リビングにやってきた玄冬は声のする方を見た。
そこには、左手に握り締めた紙を睨みつけて、唸っている花白の姿がある。
「どうした」
常にはない眉間のしわの深さに、つい声をかけてしまう。
「うん…」
頭を抱えていた右手をそっとテーブルに置き、ゆっくりと玄冬を見る花白の表情は、心底「弱った」と物語っている。
「これ…何だけどね」
そう言って、差し出された紙を、玄冬は受け取った。
「…進路希望…?」
「そ。僕ももう2年だからね、来年のクラス分けの為にって学校で配られたんだ。
1年の時は適当に書けたけど、今回はそうもいかなくて。
でも、僕、まだ先の事なんか考えてないしさ…でも提出期限は明日だし………そんで困ってたってわけ」
「ああ、そうか…お前もそういう時期か」
「お前も…って…あ!そっか、玄冬は今年大学卒業だもんね…って、アレ?」
ふと、何かに思い当たったように、花白は小首を傾げた。
「…そう言えば、玄冬は進路どうするの?就職するならもうそろそろ決まっていてもいい頃だよね」
「ああ…俺は、近所の食堂で雇ってもらう事になってる」
「えっ?…あ、そう…ふぅん…」
「…なんだ?その眼は」
「べっつに〜。ただ、いつの間にか玄冬も一人で進路決めちゃったんだなぁ、と思って」
そう言って不意に顔を背ける花白の仕草は、まさに拗ねている子供のそれだ。
一方玄冬はと言えば、急に花白が機嫌を損ねたのはわかったのだが、その理由が判らず困惑している。
「花白?お前一体どうしたんだ?急に」
「だから、別にっていってるじゃないか。それより、働く事になってる食堂って、たまにバイト行ってるあそこだよね」
「ああ、あそこなら11時から2時のランチの後はディナーの仕込みまで休憩だからな。家にも近いし、家事の合間に働くには丁度いい」
「家事の合間にって…まさか君、それで就職決めたの?」
「当たり前だろ。俺がやらないで誰が家事をやるんだ」
何事もないようにさらりと言う玄冬の言葉に、花白は軽く瞠目した。
「そりゃ…そうだろうけど…」
「親はあんなだし、銀朱はいつも残業で遅いしな、(大)はたまにしか家に帰ってこないし」
「ぼ…僕がいるじゃないか」
躊躇いがちに花白が主張すると、
「お前に頼むと仕事が増える」
と間髪入れずに、玄冬は却下した。
不満気にふくれて見せるものの、花白自身も自覚があるので黙っている。
非力そうな外見に反して力が有り余っているのか、掃除をしても料理をしようとしても、常に何かを壊してしまうのだ。
先日も、玄冬が飼っている鶏小屋の掃除をかって出た結果、見事に屋根に穴を開けてしまった。
恐らくその時の事を静かに根に持っているのだろう。
「まぁ、それは置いといて、お前だってそろそろ受験だろう」
「…受験するとは限らないよ」
「じゃあ就職するのか?」
「あーもぅ!それがわかんないから悩んでんじゃないか!!」
振り出しに戻り、今度は両手で頭を抱え、花白はうつむいてしまう。
「そう言えばそうだったな」
思い出したようにそう言う玄冬を腕の隙間から覗いて、花白は大げさにため息をついた。
「…時々君ってもの凄く天然だよね」
「そうか?」
「………もういいよ。それより、前に玄冬って植物の研究が面白いって言ってたじゃないか。そっちに進む気は無かったの?」
「それは…少し考えた。院に進んで勉強を続けてみたい気もしたが、これから小さいのも大きくなって教育費がかかるのに、
いつまでも上がつかえているわけにはいかないだろう」
「何それ、僕らの為に勉強諦めたってこと?」
「いや、何の目的も無く勉強を続けていく事にも疑問を感じただけだ。だったら、さっさと就職して家計に貢献したほうが合理的だろう」
「…何ていうか…玄冬らしいというか…」
「俺は無駄が嫌いだからな」
きっぱりと言い放つ潔い姿を羨ましく思いながら、改めて白い進路希望欄に視線を戻す。
「玄冬は自分の進む道がちゃんと見えてるんだね」
「花白?」
「白梟には…さ、どこの大学に行けとか、将来は何になれとか言われてて、でも僕は自分の将来を誰かに決められるのが嫌で、ずっと反発ばっかしてた。
けどいざ自分で決めろとなるとこれだもんね…なんか…自分が馬鹿みたいだ」
「…花白」
「結局僕は白梟のいう通りになっちゃうのかな」
そうしょぼんと肩を落とした花白の姿に見かねたのか、不意に玄冬の大きな手が花白の柔らかな桃色の髪に乗せられる。
そのまま少し乱暴に撫でられて、花白は抗議するように上目遣いで睨んだ。
「ちょっと、子供扱いしないでよね」
そう言いながらも、その手を撥ね付けるような真似はしない。
調子を取り戻した花白に苦笑して、玄冬は自分からその手を下ろす
「まだ1学期なんだし、軌道修正はできるだろう。今回はまずやりたいことを書いてみて、それから最終希望までに良く考えてみればいいんじゃないか」
「え?」
「今回がラストチャンスじゃない、スタートだと思えばいい。
将来のことを真剣に考えるは大切だが、決め付けてしまえば自分の可能性を狭める結果にもなる。
そう思えば、その白い進路希望欄を埋めるのも楽しくなってこないか?何といっても白は始まりの色だからな、これからどんな色にだってなれる」
「始まりの…色」
呟きながら花白は、テーブルに投げ出していた進路希望用紙を両手でそっと拾い上げた。
そして眼の高さまで持ち上げると、しばらくじぃっと真白い紙を見つめる。
やがて、視線を玄冬に戻すと、小さく頷いて微笑った。
「うん、『何をするか』じゃなく、『何をやってみたいか』を考えてみることにする。確かに今回はラストチャンスじゃないしね」
「そうか…」
花白の様子に、玄冬は口の端をわずかに歪める。
それが微笑っているのだということを、花白は知っていた。
「じゃあ僕は部屋でこれ書いてくるね。玄冬、洗濯の邪魔してゴメンね」
「気にするな」
「ありがとう、玄冬」
そう言って立ち上がると、花白は自分の部屋へと歩いていった。
その後ろ姿に安心したように息を吐くと、玄冬も床に置いていた洗濯籠を抱えあげて、作業を再開する為に部屋へと向かった。


「どうだい、玄冬に任せて正解だったろう」
誰もいなくなったはずのリビングで声が聞こえた。
どこに隠れていたのか、いつの間にか二つの人影がそこにある。
「ええ、それは良くわかりました…が、何で自分の家にこそこそ入る必要があるんですか」
「そりゃあ、子供たちの成長を静かに見守るのも親というものだからね、うんうん」
胡散臭い笑みを浮かべてしきりに頷く黒鷹を、白梟はため息で一蹴する。
「…ほんっとうに貴方という人は。…しかし、ああも悩むくらいであれば、私の言う通りにすれば簡単でしょうに」
「そう言うもんじゃないよ。反抗期だって人格形成には必要なのだから。
それに、あなたがいくらあの子の将来を想った事だとしても、押し付けという形になればしこりが残る。
せめて選択肢の一つとして与えて、その結果あの子がその道を選ぶのであれば、自分で決めたことだ、あの子も文句は言うまいよ」
「そうですね」
白梟が遠くを見るように視線を上げた。
「あの子は自分で選んだ道なら一途に貫くことでしょう、例えそれがどんな道であっても」
「そう、だから我々は必要な時にだけ手を貸せばいいのさ。だが、あの子達が何を考えてるかわからなければ手の差し出し方もわからないだろう」
「だからって、盗み聞きするのは決して良い手段とは言えませんが」
「まあ、まあ、別に私も普段からこういう真似をしてるわけではないぞ、今回はたまたまだ、たまたま」
「そう願いたいですね」
はぁと、大げさにため息をついて、横目で睨みつけてくる白梟に気付かない振りをして、黒鷹は誤魔化すように笑った。
「しかし玄冬も、水臭いねぇ。院に進みたいのなら遠慮せず言ってくれれば良いのに」
「あの子のいう事ももっともですよ。漠然と勉学に励んでも得られるものなど僅かなのですから」
「まぁ、家計を取り仕切ってるあの子なら、望めば弟たちの教育費を気にせずに、院に進む事も可能であることはわかっているだろうからね。 あなたのお陰で」
「貴方が働かないのなら、私が働くしかないではないですか」
黒鷹を睥睨(へいげい)する白梟の視線が危険な色を帯びる。
「いやいや、噂は聞いているよ。各界の大物から引く手数多のマーケティングプランナーがいるとね。
何でも、株の相場から政界の動きまでピタリと当てるんだって?」 
「状況判断が上手く行くだけですよ。これくらい、常日頃から気を配っていれば誰でも出来ます」
「いやいやいや、まるでそれが未来を見ているが如しだからついに『預言師』とまで呼ばれているんだって?」
「周囲が大げさなだけです。そもそも貴方がちゃんと職についてくれれば、私もここまで仕事を取る事もないのですよ」
「そんな言い方しないでくれ給えよ。私だって仕事くらいしているとも」
「山師は仕事とは言いません…まっったく」
これまでに何度も繰り返した不毛な会話を打ち切るように、白梟は本日何度目かになる深い深いため息をついた。
と、同時に白梟の携帯電話が鳴る。
ディスプレイを見れば、それが取引会社からの連絡であることがわかった。
「仕事かね」
「ええ、本日も帰りは遅くなりそうです」
「ふむ、そうかい。まあ、体を壊さない程度に頑張りたまえ」
「………」
何か言いた気な視線を黒鷹に向けたまま、白梟は電話の通話ボタンを押す。
そして仕事上の指示であろうか、電話の向こうの相手と話しながら、静かに歩み去った。

分刻みのスケジュールをこなしている白梟に、家に立ち寄るような時間的余裕は無いのはわかっていた。
だが、白梟は黒鷹の甘言に乗った。
最近沈みがちな花白の様子を聞き、様子を伺わずにはいられなかったのだろう。
白梟は気付いているだろうか、自分の変化を…。
そう思うと、去り行く白梟の背中を見守る黒鷹の顔に知らず笑みが浮かぶのだった。

(END)




K家姉
妄想日時:’07.12.4
妄想場所:自宅

なかなかキレイに物語を終らせられません。なんでズルズル続いちゃうんだろう…むむ。
ちなみに白梟は「お母さん」ですが、男でも女でもなく性別「お母さん」です(笑)。どちらでも好きに取って下さい。
つか、これ、「次男+四男」ってゆーより「父+母」?