花帰葬
         
08.3.14       
 ふわふわの日

「ほぅ」
家の中に入ると黒鷹は、感嘆の声を上げた。
それで、黒鷹の帰宅に気付いた彼らは振り返る。
我が子たちに、微笑みかけながら黒鷹は言った。
「珍しいじゃないか、今日は2人揃ってお菓子作りかい?君達が女の子だったら華やかでなお良かったんだがねぇ」
外套を脱ぎながらそう言う黒鷹に視線を向けた玄冬は、後片付けの途中なのか銀色のボウルを抱えている。
黒いローブを汚さないために少々大きめのエプロンをしたこくろが、両手で持った大皿に乗ったマシュマロをダイニングテーブルに置いた。
黒鷹は、ダイニングテーブルの上に置かれたマシュマロを眺める。

ただのマシュマロではない。
シンプルながらしかし器用にも、それはウサギの形をしていた。

色も白とピンクとある。
おとがいを指で摘むように撫でながら、黒鷹はしげしげと我が子たちの合作と思われる作品を凝視する。
「はなしろ達にどうしても今日、マシュマロが食べたいと言われたんだ」
説明するようにこくろが言うと、それだけでピンと来たらしい黒鷹ははは〜んと一人納得すると、芝居ぶったオーバーリアクションで何度も頭を縦に振る。
「なぁるほど。いやぁ、いじらしいじゃないか、ちびっこ達も」
「何だ、お前何か知ってるのか?」
高い棚にマシュマロ製作で余った材料を仕舞ながら、玄冬は訝しげに黒鷹を見る。
すると、黒鷹はにんまりと顔面に笑みを張り付かせると
「いや?何の事かな?私は何も知らないよ?」
そう、しれっと言った。
藍色の瞳が2対、半眼になって黒鷹をじろりと見る。
「お前…それで誤魔化してるつもりか?」
「というか誤魔化す気ないだろ、お前」
玄冬とこくろからダブルでツッコまれても、黒鷹はヘラヘラ笑みを浮かべたまま。
どうやら黒鷹は2人に構って欲しくてわざとそういう物言いをしているが、本当の事を教える気は無いようだ。
悲しいかな、経験でそれがわかってしまった2人は、無駄な追求を揃って溜息で打ち切った。
あっさりと引き下がった2人に、黒鷹は意外そうに片眉を跳ね上げる。
「む、もっと喰い付いてきたまえよ」
「無駄な事はしたくない」
「疲れることもな」
2人は黒鷹を冷たくあしらうと、作業を再開する。
「………ふぅ〜んだ、どうせ子供なんてちょっと大きくなると、もう父親なんかいらなくなるんだ。 洗濯物を箸で摘んだり、私の入った後のお湯を流してもう一度お風呂を入れたりするんだ………」
そんな子供達の仕打ちに、黒鷹は部屋の隅っこで膝を抱えて蹲(うずくま)り、膝を抱えてブツブツと呟き始めた。
午後の陽光差し込む台所で、その一画だけが妙に影が濃い。
「泣くな、うっとおしい」
「というか、下着を箸で掴むなんて不衛生極まりない事を俺がすると思うのか」
「風呂を入れなおすのも手間だしな、だったら最後に入れればいいだけだし」
愛情のかけらも無い物言いに、黒鷹はついに鳥化して壁を蹴り始めた。
湿気まで発生しそうなイジケっぷりだ。
玄冬とこくろは視線を交し合うと、仕様がないなように息を吐く。
そして、黒鷹に近付いたこくろが
「おい」
と声を掛けた。
涙目のトリタカは、首だけを廻らせてこくろを見る。
すっかり拗ねている黒鷹の目の前に、何かが差し出された。

それは、たった今出来たばかりのマシュマロ

「今日は好きな人にマシュマロを贈る日だろう。お前に一番にやるから、いい加減泣き止め」
差し出されたマシュマロは、温度を持たないだろうに何故かとても温かそうで、ふわふわとしている。
「何だ君達、知っていたのか」
「本を読めばそれくらいわかる」
「俺は鈴音に聞かされたしな。みんな、俺達はこういう行事に疎いと思っているだろう」
心外と言わんばかりの2人を、黒鷹はぽかんと見上げた。
「まぁ、確かに興味は無かったがな…」
「それより、いい加減人型に戻れ。そのままじゃ食べ辛いだろう」
こくろに促されて、思い出したように黒鷹は人型に身を戻した。
たった今見上げていたこくろを、今度は見下ろす。
そして、ほら、と改めて差し出されたマシュマロを一つ摘んで口に入れた。
「どうだ、白い方は中にチョコレートを入れて、ピンクの方はイチゴのペーストを入れてみた」
「うん」
口の中に広がる程よい甘さと、溶けるような舌触りに、ようやく黒鷹の顔にいつもの笑みが戻る。
「さすが君達だ。初めて作ったとは思えないほど美味しいよ」
「そうか。本当は少し自信が無かったんだ」
「む、君、まさか私を実験台にしたのかね」
「いいや、お前の分はちゃんと作っているぞ」
「………そうか。うんうん、優しい子供達を持って、私は幸せだよ」
大げさに涙をハンカチで拭う素振りで、嬉しさと照れを隠す。
ちらりと玄冬を見ると、視線が合った途端に顔を背けられる。
あの子も照れているのだろうか…などと考えながら、更にマシュマロを一口………
「…おい」
ぱくんと口を閉じたところで、玄冬に声を掛けられた。
視線だけで返事をすると、玄冬は苦い顔をしている。
「あまり食いすぎるな」
「なぁ〜にを言っているんだい、まだこんなにあるじゃないか!」
意外な玄冬の言葉に、黒鷹は目の前のマシュマロを両手を広げて示した。
「これはあいつらの分だ」
そう言ってこくろも、マシュマロを引っ込める。
先ほどまでの嬉しい気持ちが急激に萎んでゆくのを、黒鷹は感じた。
「何だい何だい、君達。私への愛情はこれっぽちという事かね」
駄々っ子のように黒鷹が不満を露わにすると、逆に玄冬はにっこりと笑みを浮かべた………それはもう、不敵な笑みを。
「何を言っている。お前の分はちゃんと作ってあると言っただろう………別に」
そう言う玄冬の顔は笑っているのに、眼だけが笑っていない。
ぞわり!と黒鷹の背を悪寒が走った。
………これは、嫌な予感がする…。
台所に置いてあったもう一つの大皿を取るため、後ろを向いた玄冬の眼を盗んで、黒鷹はそろりと後ずさった。
こくろには、立てた人差し指を口の側に寄せ、「静かに」のジェスチャーをして。
だが、そんな黒鷹の行動を予想していた玄冬は、外見にそぐわない俊敏な動作で黒鷹の前に立ちはだかった。

手にしている大皿に乗っているのは、言わずもがな緑色のマシュマロ

そうか、さっき玄冬が眼を逸らしたのは照れ隠しなんかじゃない…この子は優しい子だから純粋に感謝を示す黒鷹に対してバツが悪かったのだろう。
これから起こる一悶着を前にしていたのだから。
合点のいった黒鷹は笑みを浮かべた。
とてつもなく引きつった笑みを。
黒鷹が逃げないよう、後ろ襟を猫の子を持つように掴んで、玄冬は黒鷹を壁際に追い詰める。
そして大皿を黒鷹の眼前に差し出し、地を這うような声で言った。
「これは、今日までありとあらゆる野菜から凝縮したエキスを混ぜ込み、中には野菜のペーストを入れてある。手間暇とお前の言う愛情を籠めた一品だ。 さぁ!これを食って今日の必要栄養素を摂取してもらうぞ、黒鷹!!」
「それは栄養なんかじゃない!毒だー!!」
鼻腔を刺激する青臭い匂いに耐え切れなくなった黒鷹は、力の限り叫んだ。
そして、鳥姿に転身する。
突然手の中の物が消えた玄冬は、バランスを崩しながらも、眼はしっかり黒鷹を追いかけていた。
危うげ無い動作で、軽くは無いだろう大量のマシュマロの乗った大皿を左手に、右手は飛び上がろうとする黒鷹を追う。
「待て!黒鷹!!今日は逃がさんぞ!!」
「そう言う君もそろそろ諦めたまえ!!」
そう言いながら、室内で追いかけっこを始めた玄冬と黒鷹を、贈り物用のマシュマロの乗った大皿を手に安全地帯に逃れたこくろは呆れたように眺めた。
「結局このオチか…良く飽きないな、2人とも」
そして深く溜息を吐くのであった。





K家姉
妄想日時:’08.3.13
妄想場所:自室

まさか元ネタがBLオンだとはお釈迦様でも気付くめぇ(ヤケクソ)。
黒鷹出すと、全部持ってっちゃうんだもんなぁ(^^;
本当はもっとストーリーを練りたかったというのが本音だったりします。
………いつもギリギリだからこうなるんだよ(苦笑)

ちなみに基本的にホワイトデーは日本だけの風習ですね。
本来はチョコレート入りの白いマシュマロを贈るものだとか。
キャンディー販促の日でもあるようですが、今回は何となくマシュマロでv