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米×英 |
| 09.9.27 |
| 初恋 |
イギリスが来てくれるのが酷く嬉しかった事を覚えている。 船が着く港まで行っては、タラップをゆっくり歩み降りてくるイギリスを見つけて駆け出し、 その首に飛びつくのがいつもだった。 そうするとイギリスはいつだって慌てて荷物を離して、俺を抱きしめてくれたから。 でも、時折、イギリスのものではない香りが鼻に付く事だけが嫌いだった。 その日も到底彼がつけると思わないパルフォンの香りがした。 それと、抱きしめられて埋めた首、乱れた襟元に覗いた紅い跡。 俺はゆっくりとイギリスの肩を押すようにして身を離した。 俺を覗き込む緑の宝石のような瞳が怪訝そうな色を湛えてる。 「ん?どうしたアメリカ」 「イギリス…なんだかいつもと違う匂いがする」 ぼそり、と俺が言うと、彼は気まずそうに視線を泳がせた。 「あ…あー。船室に飾られていた花が匂いきつかったから、それかなー」 それは、子供の俺から見てもわかる明らかな嘘。 一体イギリスはいつまで俺を小さな子供だと思っていたのだろう。 そりゃあまだこの頃はイギリスよりもずっと背も低かったし、子ども扱いされても仕方がなかったかも しれないが、それでもこんなわかりやすい誤魔化しに騙されるほど幼くもなかった。 その時、俺たちの背後をすり抜けるように、派手なドレスの貴婦人が日傘を差して通り過ぎる。 そこからたった今イギリスからかいだのと同じパルフォンの香りがした。 その日、いつもは手を繋いで向かう家までの道のりを、初めて距離を置いて俺達は辿った。 「な…なぁ、アメリカ。何か食いたいもんはねぇか?」 彼は上着を脱いで椅子にかけると、シャツの袖をまくってそう言った。 食べたいもの?彼の料理を知る者なら答えは「NO」以外にはない。 それがご機嫌取りだとわかっているなら尚更だ。 彼の料理で機嫌が直るもんか。 でもその時の俺は、必死で笑顔を作って 「イギリスが作ってくれるものならなんでもいいよ」 と言った。 「そ…そうか…」 彼は満更ではないような顔でそう言うと、キッチンに向かって姿を消す。 まったく、子供だと思って彼は簡単に俺の言葉を信じてしまったらしい。 俺はいつまでも草原で出会った頃のような無知な存在ではないというのに。 嘘をつく事を知った。 イギリスが教えてくれた。 彼の姿が見えなくなると、俺は肺の中の空気を入れ替えるように大きく息を吐いた。 イギリスがいた場所には、まだあの下品なパルフォンの匂いが残っている。 彼の首筋に残っていた女の差す紅の赤さを思い出し、俺は妙に腹立だしい気分になった。 何に対しての癇癪なのかは分からないが、酷く苛つく何かが胸の真ん中を占めている。 何でもいいから当たり散らしたくて、イギリスが上着をかけていた椅子を思い切り蹴飛ばした。 ガタン!!と思ったより大きな音がして、反射的に俺の体は硬直する。 固い靴底が木の床を叩くように音を立てて、イギリスがこちらにやって来た。 「どうした!アメリカ!!」 「…あ………」 キッチンから姿を見せたイギリスは、俺を見て一先ずの無事を確認したのか、今までに見たことの無い ような怖い顔を一瞬で和らげ、ゆっくり俺に近付いてくる。 「大丈夫か」 「ご…ゴメン、イギリス。うっかり椅子を倒しちゃって、上着…汚しちゃったぞ」 「いや、構わねーよ。ただ何かと物騒だからお前に何かあったんじゃないかと…」 「ごめんなさい…」 また、嘘をつく。 イギリスはまたそれを無条件で信じてくれる。 何故だろう、俺を信じてくれるイギリスの気持ちは嬉しいはずなのに、胸がちくりとするんだ。 その意味を知るのはもう少し後の話――― その時の俺は、無事を喜ぶように俺を抱きしめようとしたイギリスの腕から逃げ出しただけだった。 「服、ブラシかけてくる!それくらいならできるんだぞ!」 俺は床に落ちていた上質の上着を抱えると引っ掴むと、その場を逃げ出した。 上着からもあのパルフォンの下品な匂いがしたが、彼自身から感じるより何倍もましだったから。 外の干し場まで全力で駆けると、生地が傷むのも構わず天日に向かって大きく上着を拡げた。 そうすればあの匂いが消えような気がしたから。 ハンガーにかけてロープに吊るすと、丁度草原の方から風が吹いて上着が大きくはためく。 この分ならきっとすぐにパルフォンの匂いは消えて、いつものイギリスの匂いになるだろう。 草のように爽やかな、花のように甘やかな俺の好きなあの匂いに。 なぜかそう思っただけで、俺を今まで突き動かしていた衝動はストンと消え、同時に体の力も 抜けてゆく。 自分の服が土に塗れるのにも構わず、俺はそのまま地面に転がった。 青い空、たなびく白い雲、草原の風、それに揺れる梢。 それらを遮るように、イギリスの上着が視界を覆った。 ああ、イギリスに残る香りが、自分のものならいいのに――― どこまで近付けば、どれだけ側にいれば、イギリスに自分の香りを移すことが出来るのだろう。 そして、いつか交じり合って二人の匂いになればいい。 他のどんな匂いも寄せ付けないほどに。 そう考えて、何故か顔が赤くなるのが判った。 それから慌てて自分の体を嗅いでみる、よもやとは思うが、嫌な匂いだったら困るし。 だが、自分の体からは、土の匂いしかしなかった…今、寝転んでいる大地[アメリカ]の……… 「こーら!アメリカっ!!」 遠くで声が聴こえた。 どんな雑踏の中でも間違うことの無い、イギリスの声だ。 「お前っ!土だらけじゃないか!」 「あっ…!」 慌てて飛び起きると、自分の体からほろほろと土が落ちた。 「えーっと、これは…」 「まったく…しょうがねぇなあ」 視線を彷徨わせていると、溜息混じりの柔らかな声が近付いてくる。 そっとイギリスを見上げれば、苦笑を浮かべながら優しく体に残った土をほろってくれた。 「行儀悪いぞ」 言葉は叱るものだったが、イギリスの顔を見れば怒っているわけではないことは、容易に察せられた。 だから…俺は意を決すると、勢い良くイギリスの腕を引いた。 「ぅ…わっ!!」 油断していたイギリスは、俺に引っ張られるまま体勢を崩す。 元々力は充分にあったわけだし、小柄なイギリスを引き倒すことなど、大したことなかった。 どさり、と二人もつれるようにして地面に倒れこむ。 乾いた土が砂煙を上げた。 「…痛ぅ…アメリカ?」 「こうしていると気持ちいいんだぞ?」 物問いたげに俺を見るイギリスが何かを言う前に、俺はとっておきの笑顔で遮った。 イギリスは、なお何か言いたげだったが、キュッと口を閉じ、ゴロリと転がって空を仰ぎ見る。 「久しぶりだ…こういうの」 「イギリス?」 イギリスが目を細めると、一際風が強く吹いて、稔りの象徴のような金の髪が揺れた。 「気持ちいいな」 それから、ゆっくりと芽吹いたばかりの草木のように鮮やかな緑の瞳が俺を見る。 「ありがとう、な」 それがあまりにも綺麗で、透明で。 今にも消えてしまいそうだったから、俺は慌ててイギリスにしがみついた。 「アメリカ?」 「ね?とっても気持ちいいんだぞ」 その時、鼻腔をくすぐったのは、あの忌々しいパルフォンの香りではなく、土に塗れた、イギリスの……… ああ、それだけで、何故こんなに泣きたくなるんだろう。 イギリスがそっと俺を抱きしめてくれた。 「………ごめんな、長いこと来れなくて…」 「ずっと待ってたんだぞ…ずっと…」 理解できない涙は、イギリスに会えなかった寂しさの涙に変えた。 だって、違ったんだ。 イギリスから大地[おれ]の匂いがした事が―――泣くほど嬉しかったなんて、言えなかったから。 それは、芽生えたばかりの恋心。 何度も君に恋をする、最初の物語。 それから俺は、あの時の望みを叶えるために、長い時をかけることとなる。 |
K家姉 米英ってか子米→英 …ってか子米って出会った頃のスモック米を指すのか、 少年時代の半ズボン米を指すのか未だに悩む…どっちもか?! 子米可愛いよ!子米! K家姉の話には珍しく、どっちかってーと英が お母さんというよりお父さんな話……… お父さんだよな?なッ?!! |