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米英 |
| 10.1.11 |
| noticed love |
最近彼らは随分と仲がいい。 「お前、怖い目をしてるぞ」 いつの間にか隣にいたフランスに頬をつつかれ、ジロリとアメリカは視線を移した。 睨まれた当のフランスは、締まりの無い顔にいやらしい笑みを浮かべている。 「なに、お前あの二人気になんの?」 ツンツンとしつこくつつく指先を邪険に払いのけ、アメリカは珍しくぼそりと「別に」と呟く。 「最近アイツら仲いいもんな、お兄さんも嫉妬しちゃうわぁ」 普段とのテンションのギャップを面白がっているのか、拒絶する態度のアメリカにフランスは尚も 構い続ける。 そして先程アメリカが見ていた方向に視線を移し、目を細めた。 そこにはイギリスと日本の姿。 時に楽しそうに笑い、時に困惑したように焦り、コロコロと表情を変えるイギリスと、そのイギリスに 穏やかに相槌を打ち、笑いかける日本はとても楽しそうだった。 「別にって言ってるだろう。俺は彼らがどうしようが関係ないね」 「なら何でお前はずっとアイツらを見ているんだ?」 「だから別にって…」 「お前、いまどんな顔してるか鏡見せてやろうか?」 しつこいフランスの態度に再びアメリカはフランスを睨みつけた。 殺気すら籠もったその眼差しに、フランスはおどけるように両手を挙げて制した。 「おっと、八つ当たりは止せよ」 「俺は君のその態度にムカついているんだよ、フランス」 「だぁって、お前今にもあの二人に襲い掛っていきそうな勢いだったんだぞ。そりゃあ思わずお兄さん も止めたくなるさ」 「そんな………」 反論を紡ごうとした唇は、何かを言いかけて固く結ばれた。 ようやく気付いたか、とフランスは息をついて両手を下ろした。 「そりゃあな、今までお前ばかり構ってたのに急に他の奴に夢中になっちゃおもしろくないわな」 再び食い入るように二人を見るアメリカの肩に肘を掛けてフランスは言う。 その声は先程までの面白がるようなものとは違う、労わるようなものだった。 「でも、ようやく気付いただろう。自分の気持ちがさ」 「自分の…気持ち…」 ああ、とフランスは眼を伏せて囁くように言った。 「自分が誰を好きなのか、ってことをさ」 正直フランスはずっともどかしい想いをしていたのだ。 自分の気持ちに気付かず、無意識な嫉妬で周りを振り回していたこの子供に。 今までは近すぎて見えなかったもの。 けれども今は距離ができたからこそ見えたもの。 「好き………」 噛みしめるようにアメリカは繰り返した。 まるで催眠術に掛かっているかのように、ぼんやりと。 しかしその瞳は真っ直ぐにただ一人に向けられていた。 ようやく一件落着かと安堵したフランスだったが、次の瞬間信じられない言葉が耳に飛び込んできた。 「そうか!俺は日本のことが好きだったんだな!」 「へ?!!」 「そうとわかれば………おーーーい、にほーーーん!」 「ちょ!お前…!待………っ!!」 「おや、アメリカさん、どうされました?」 イギリスを向いていた日本がすっとアメリカに向き直る。 その顔には穏やかな、けれど表情の読めない笑みが浮かんでいた…が、急にその顔が驚きに強張った。 アメリカは日本の両手を、日本のものより倍はありそうな大きな手でガッシリと握りこむ。 まるで逃がさないというように。 突然すぎる展開に付いて行けず、日本は唖然として成すがままになっていた。 「おい、アメリカ。日本はスキンシップが苦手なんだから、いきなりそういう態度は…」 固まってしまった日本を庇うように、イギリスがアメリカに嗜める。 当惑しているのは日本だけではない、たった今まで日本と話していたイギリスだってそうだ。 それでも思わず小言を言ってしまうのは、もはや条件反射というものか。 困った元弟の背後には、次の展開を予想できたフランスが、止めるように手を伸ばしているのが見えた。 だが、結局アメリカの次の一言を止められる者など、この場にはいなかった。 「俺、日本が好きみたいなんだぞ!だから君は俺と付き合うべきさ!」 ・ ・ ・ 「「「はぁっ?!!」」」 しばし時間が凍りついたようだった。 アメリカ以外の全員が思わず言葉を失う。 だが、当の本人であるところのアメリカは、胸をそらせて堂々と言葉を続ける。 「聞こえなかったかい?じゃあもう一度言うんだぞ、俺は日本が………」 「あー!あー!わかりました!!わかりましたから、もういいです!!」 慌てて日本が言葉を遮る。 その言葉にアメリカの瞳が輝いた。 「ワオ!わかってくれたかい、日本。それじゃあ今から俺達は恋人同士なんだぞ!」 「は?え?」 「たった今、君はわかったって言ったじゃないか」 「そ、それは何と言ったか聞き取れたという意味で…」 普段からアメリカの強引さに振り回されている日本は、アメリカの言葉に口を挟む事すら出来ない。 唯一事の顛末を知っているフランスが、暴走するアメリカを宥めるように声を掛けた。 「あ…アメリカ…お前、ちょっと待て」 「なんだい、フランス。愛し合う二人の邪魔をすると、馬に蹴られてGo to hellなんだぞ」 もちろんフランスが止められるわけもない、むしろ恋愛映画によくある障害程度にしか思われていない ようだ。 馬どころか自ら地獄送りにするとでも言いたげなアメリカの無情な視線に、思わずフランスは怯む。 もはや孤立無援となった日本は、再び主張を口にしようとしたが… 「そうと決まればさっそくデートだ。さぁ、日本、行くぞーーー!!」 腕を振り上げ歩き出すアメリカに口を開く間も許されず、日本は拉致同然の強引さで引き摺られて行く のであった。 後に残されたのは、最早諦念と溜息で二人を見送るフランス、そして………。 「………あ〜あ」 ちらり、とフランスが横目で隣を見る。 「で?お前さんはいつまでそうしてんの?」 「ア…アメリカが…日本を…?」 アメリカの衝撃の告白から今だに正気に戻れず、固まったままのイギリスだけであった。 強引に連れていかれた所は、毎度お馴染みマクドナルドである。 あれよあれよという間に注文し、当然のように日本が奢らされ、席につくとようやく嵐のような一幕は 落ち着きを見せた。 まるで荷馬車に乗せられた子牛のような気持ちになっていた日本は、このままではいけないと意を決して アメリカに声を掛ける。 「アメリカさん?!」 「なんだい、日本」 アメリカはシェークのストローを咥えたまま返答する。 変な事ばかり器用なアメリカに呆れながらも、日本は居ずまいを正してアメリカに問いかけた。 「どうして急に私を好きだなんて、血迷…いえ、思われたんですか?」 きょとんと日本を見たアメリカは、次に遠くを見て、再び日本に視線を戻す。 「………フランスに言われたんだ」 「フランスさんに?」 「俺は君達が仲良くしているのを見て嫉妬しているってさ」 ははぁ、とその一言で日本は全てを理解した。 心中で深々と溜息を吐くと、慎重に言葉を選ぶ。 こんがらがった糸を解くように。 「そうですか」 「確かに最近変だと思ったんだよなー。君達が一緒にいるのがやけに目に付くし、言われてみればそうや って君たちを見ているときは、こー…なんていうか、胸がモヤモヤするというか。日本は俺の方が先に 出会ったんだぞー。なのにイギリスがずーっと君にベタベタと…幾ら寂しいからってよりにもよって 日本に構わなくてもいいじゃないかぁ」 拗ねたように口を尖らせるアメリカ、表面上は笑みを浮かべながら、日本は殊更優しい声色で続きを促す。 「それで?」 「それで…って」 ようやく違和感に気付いたのか、きょとんとした目でアメリカは日本を見た。 日本は小さく穏やかな笑みを浮かべる。 「それは私とイギリスさんが仲良くしているのが面白くない理由ですよね。私が伺いたいのは、あなたが 私を好きだと言った理由です」 少し考えるように何もない中空を睨んで、決まり悪そうにアメリカは日本を見た。 まるで教師に指名されて自信の無い回答を披露する生徒のように、普段のアメリカらしくなく日本の顔色を 伺いながら、ゆっくりと口を開く。 「そんなの…決まってる。俺はイギリスが大嫌いだからさ」 「だから、私が好き…ですか…」 困ったものですね、とわざとらしく溜息を吐くと、慌てたようにアメリカが言葉を畳み掛ける。 「俺は日本が大好きだぞ。日本といると楽しいし、それに落ち着くし…」 並べ立てる言葉は紛れもない、「言い訳」だった。 語る言葉が尽きてくると、様子を伺うようにアメリカは日本を見る。 真っ直ぐにアメリカを見据える黒耀の瞳は何の感情も読み取れない。 思わず口篭るとその瞬間を狙って日本は静かに問いかけた。 「では、私相手にドキドキした事は?」 「え?」 「四六時中私の事を考えたり、私の事を考えて胸が苦しくなったりする事は?」 「に…日本?」 「私に性的な欲求を覚えたことは?」 「なにを…言って…」 「ねぇアメリカさん、あなたが本当に嫉妬したのは誰にですか?」 だって、あんな笑顔誰にでも見せるものじゃないじゃないか。 コロコロと変わる表情、君を変えるのは俺であるべきなのに。 ああ、何故俺はこんなにも君にイラついているのだろう。 いつだって君が俺を不安定にさせる。 俺がこんな気持ちでいるのに、君が他の誰かを構ってていいはずがない。 君は俺だけ見ていればいいんだから! 言の葉に奔流され、ホワイトアウトした脳裏に浮かぶのは誰かに笑いかける良く知った顔。 見飽きるくらい見ているはずなのに、いつだって探して、目で追っている顔。 だから普段仏頂面で一人でいる事が多い彼が、最近頻繁に笑うようになった事に気付くのは、当然過ぎる ほど当然だった。 あんな風に彼が穏やかに笑みを浮かべているのは久しぶりに見る。 そしてそれは自分によってではない、自分に向けられたものですらない。 彼の笑顔は自分が捨てたものなのに、それでも彼の笑顔は…全ては自分のものだと身勝手な妄想を 抱いていたのだと思い知らされた。 他の誰かに彼の笑顔が向けられるとは思ってもみなかったのだ。 けれどそんな事あるわけないと思い込んでいた自分に突きつけられた目の前の事実。 その事実が、怒りや苦しさ、そして僅かな後悔でもって愚かな自分を苛む。 嫌だ…悔しい…ああそうだ、こんな事があっていい筈がない。 ならば消してしまおう、彼から笑顔を向けられているものを。 それは他者の尊厳さえも無視し蹂躙する、狂気といえるほどの独占欲。 自分の理念とする『自由』を他者には認めない傲慢。 理性が警鐘を鳴らす、それは正義の味方であるはずの自分にあってはならない感情だ。 自分は清廉潔白で、こんなどす黒い、醜い感情を抱いていてはいけないのだ。 こんな想いを抱かせるのは彼が悪い、全て彼の所為だ。 だからイギリス、君は俺だけの君でいて! 己と他者の『自由』を守るために、彼の『自由』を奪う矛盾を強く願う。 更にその矛盾から自分を守る手段として、己を歪ませ、彼を傷つけてでも、そう願っている自分から必死に 目を逸らし続けていたのだ――― ガタリと派手な音を立てて、夢から覚めたようにアメリカは立ち上がった。 あまりにも勢いが良かったために椅子が大きな音を立てて倒れる。 ゆっくりと、アメリカは日本を見た。 日本は先程と同じように闇色の瞳を自分に向けている。 「日本…俺…」 「ご自分の感情の全てが誰に向いているのか、それが答えですよ」 日本はそれ以上何も言わない。 ただ穏やかにアメリカを見返すだけだ。 居ても立ってもいられなくて、アメリカはようやく目を逸らし続けていた「真実」に向かって走り出す。 日本はその背を、目を細めて見送った。 ぶつかるように自動ドアを抜け、店を飛び出す。 ビルが立ち並び、人が忙しく行き交う街は、答えを知っていても真っ直ぐにはゴールに辿り着けない迷路の ようだ。 人を避け、道を曲がり、目指すゴールだけをひたすらに想い描きながらただ走る。 イギリスに対して想う気持ちと向き合う事を避け、時には自分と自分の理想を守るためだけに、 酷い言葉や態度でイギリスを傷つけてきた。 何という傲慢な偽りのヒーローだったのだろう。 過ちは正さなくてはならない、今度こそ、本当のヒーローになるために。 たとえその為にどれほど自分が傷ついたとしても、今度は自分の番だ。 恐らく自分はそれ以上の痛みをイギリスに求めていたのだろう、その罰は受けなくてはならない。 本当はこれほどまでにイギリスを傷つけずに済んだ方法が一つだけあった。 ―――最初にイギリスの手を払って独立した時に、完全に彼との係りを絶つ事――― それはアメリカ自身に痛みを伴う選択。 だから彼はその痛みをイギリスへ押し付けた。 確かに欧州から…イギリスからは距離を取った。 しかし孤立政策などと気取ってみたところで、それこそかつての日本のように周囲から隔絶していた わけでもない。 貿易などで係りを断ち切れず、そうやって未練がましく繋いでいた絆で彼を縛り続けていた。 いつまでも過去に執着するイギリスを嫌悪した振りをしながら、実はそう仕向けたのは自分なのだ。 何故そこまでイギリスに固執しているのか、そんなのは最初から答えはあった。 また道を曲がる、息を切らせ必死に足を動かしながら、確実に近付いているゴールを想う。 自分は何と遠くに来たのだろう、つい先程まですぐ傍にいたのに、気付けばこんなに離れてしまっていた。 最後の角を曲がると、アメリカの視界にイギリスの姿が現れる。 ずっとそうしていたのか、最後に見たままの格好で今だ呆然と立ち尽くしている。 その傍ではフランスがイギリスに声を掛けたり、目の前で手を振ったりしていたが、アメリカの姿を見る と飛びのくようにイギリスから離れた。 ついでに何故か丸腰である事を示すように両手を上げる。 今までとは比べ物にならない嫉妬丸出しのアメリカの視線に、今度こそ本当に命の危険を感じたからだ。 それから、やれやれやっとか、と言うように溜息を吐く。 そして―今度こそ間違わないでくれよ―と祈りながら、そっとその場を離れた。 アメリカが一瞥で邪魔を排して再びイギリスを見ると、その視線に応えるようにゆっくりとイギリスも アメリカを見る。 「アメリカ?」 宝石のような翠の瞳に自分を映し、そう呼ぶ声に心が震えた。 ああ、貪欲な自分はたったこれだけのささやかなことですら喪いたくなかったのだ。 今から自分は全てを告白する。 それはとても覚悟のいる事だ、今まで当たり前と思っていた大切なものを全て喪うかもしれないのだから。 そのうえで、例えマイナスからのスタートでも構わない。 イギリスが彼自身の意思で一緒にいたいと思ってくれるように、自分は努力しなければならない。 イギリスの前でアメリカの足が止まる。 綺麗な瞳が零れ落ちそうなほど目を見開いて、イギリスはアメリカを見ている。 次は間違わない。 そして今度こそハッピーエンドを目指すんだ! 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K家姉 微妙にヤンデレた部分があったのですが、そこを切ってできるだけただのドタキュンで終わらせました(笑)。 内面を深く突っ込もうとすると、何故かヤンデレてしまうとか、どうした自分。 互いに依存して、互いで世界が完結してる二人に巻き込まれた他国がいと憐れという話でした。 |