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アンジェリーク 女王ED |
| 07.2.4 |
| MY HEART DRAWS A DREAM |
アンジェリークは長い回廊を駆け抜けていた。 堅苦しい重いドレスを脱ぎ捨て、久々に丈の短いスカートを穿いている。 赤いプリーツスカートから覗く成長期のまま時間を止めてしまった足は、完成されてはいないが しかししなやかで、石畳を蹴り速度を上げてゆく。 赤いリボンの結ばれた金の髪が、太陽の日差しを受けてキラキラと輝き、なびいてた。 「おや?」 アンジェリークの向かう先からやって来たルヴァは、その輝きに少女に気付くと足を止め、 猛烈な勢いで脇を通り抜けるアンジェリークをただ視線で追いかけた。 そして、その姿が廊下の角を曲がる直前に 「お気をつけて行ってらっしゃい〜」 とのんびりと声を掛ける。 その声がアンジェリークに届いたかどうかは、定かではなかった。 さて、事の始まりは夢の守護聖の私室だった。 ノックも無しに勢いよくドアが開いて驚いたというのに、更にそのドアから入ってきたのは当代女王陛下なのだから、 さしものオリヴィエも驚きに固まってしまった。 アンジェリークは妙に思いつめた顔をしてオリヴィエの前にやってくると、突然両手を自分の顔の前に合わせて 頭を下げた―――むしろ拝んでいると言ってもいい。 「ち、ちょっと、女王陛下。止めて下さいよ」 慌てたのはオリヴィエだ。女王陛下に頭を下げられるなんてとんでもない。 すると、アンジェリークはキッとオリヴィエを見て、 「お願い!オリヴィエ!!私に力を貸して頂戴!!」 と詰め寄った。 「わ、わかった、わかったから、落ち着きなって、陛下」 慌てて身を引く。 そして紅茶を淹れるから、と、とりあえずアンジェリークを座らせる。 オリヴィエの趣味の良さがわかる綺麗なカップが目の前に置かれると、それを両手で包み込むように持って、 アンジェリークは熱い紅茶をすすった。 その仕草はとても女王陛下とは思えない………それは当然だ、彼女はついこの間までただの女子校生だった のだから………。 一息ついて、ようやく落ち着いたアンジェリークは、ゆっくりと事情を話し始めた。 「なぁるほど。それで、私の所へ来たってわけね」 女王陛下の御前だというのに、特に気取ることなくオリヴィエはそう言って頬杖をついた。 「力を貸してくれる?」 上目遣いに見上げてくる女王陛下の魅力に敵う守護聖などいるはずもない。 彼も一つ溜息を吐いただけで 「オッケー。私に任せなさい、陛下」 と片目を瞑って承諾する。 それからウキウキと席を立つと、彼の自慢のウォーキングクローゼットの扉を開けた。 「この間取り寄せた服なんか似合うかもね〜」 鼻歌混じりに次々とハンガーを手繰って目的の物を探し始める。 その彼の様子をクローゼットの入り口から覗いていたアンジェリークが、突然「あっ!!」と声を上げた。 思わず動きの止まるオリヴィエ。 そのオリヴィエの手にある服を見て、アンジェリークはにっこりと笑みを浮かべた。 それは、彼女が以前に身に纏っていた、聖スモルニィ学園の制服と良く似たデザインの服だったからだ。 ところで、何故オリヴィエがそんな服を所持していたのかは知る由も無い――― オリヴィエから借りた服に着替えたアンジェリークは、日陰となって薄暗い回廊をひたすら走る。 先ほどルヴァの姿が見えてヒヤリとしたが、とりあえず止められる事も無く目的の場所に辿り着けそうだ。 四角く切り取られたように明るい外への出口はすぐそこ。 アンジェリークはここまでの首尾に満足したように笑みを浮かべ、その光の中に飛びこんだ。 こんこんと性格を表したように、規則正しいノックの音。 ……… 中からの応答は無い 再びノックする。 ……… 相変わらず物音一つしない。 不審に思ったその人物は、嫌な予感に顔をしかめると 「失礼します、女王陛下」 と断って、ドアを開けた。 「先ほどの書類の追加の資料なのですが………」 用件を言いかけて、その人物―――補佐官ロザリア・デ・カタルヘナは動きを止めた。 その部屋に特に変わった様子は無い、先ほど退室したまま整然としている。 だが『それこそが問題』なのだ。 机の上に置かれた本日の仕事は僅かにも動かされた気配はない。 そして、何よりも そこに女王陛下の姿は無かった 「陛下?」 うっかり取り落としそうになった資料を抱えなおして、ロザリアは首を巡らせた。 この部屋に隠れるようなところは無い。 念のため机の下も覗いてみたが、そこにも姿は無い。 部屋に備え付けられたレストルームも同様だ。 「………」 ロザリアはしばし熟考すると、資料を執務机に叩きつけるように置き、踵を返した。 「何っ、女王陛下のお姿が見えないだと?!」 ロザリアから報告を受けたジュリアスは、眉間の皺を深くした。 「ええ、そうなのよ。近くは粗方探してみたのだけど………」 ロザリアは頬に手のひらを当て、溜息を吐いた。 そして頭痛を堪える様に眉を寄せる。 「何か事件でしょうか」 ジュリアスの側に控えていたオスカーが深刻そうに声を掛ける。 「だが、異変など微塵も感じなかったが………」 ジュリアスも最悪の状況を憂いているのか、普段から近付きがたいその顔を更に険しくしている。 そこに 「あぁ〜、陛下なら、先ほど回廊でお会いしましたよ〜」 と場にそぐわないのんびりとした穏やかな声が聴こえてきた。 一同はばっ!とその声の方を見る。 そこにいたのは、厚みのある重そうな本を抱えたルヴァであった。 「それは本当なの?!ルヴァ!!」 まさに食ってかかる勢いで、ロザリアが詰め寄る。 その迫力に特にひるむ事も無く 「ええ〜」 といつものペースで首を縦に振る。 「何やらずいぶんと慌てたご様子で聖殿の出口へ向かわれておられましたが………」 「聖殿の?」 「出口…だと?」 ロザリアとジュリアスがオウム返しに言葉を繰り返す。 「ルヴァ様、何か陛下に変わったご様子は?」 オスカーが問いかけると、そうですねぇ…とルヴァは何かを思い出すように、上を見る。 そして、「ああ」と言いながら、ポンと拳を手のひらに打ちつけて 「そういえば、何だか懐かしいお洋服をお召しになってましたね〜。そう、まるで女王候補だった頃のような…」 「そう………」 そこまで聞いて、ロザリアは呟いた。 俯いているので表情は読めないが、全身から漲る黒い炎のような怒りのオーラに、それだけでその場にいた守護聖達は皆、息を飲んだ。 そしてただ、ロザリアの動向を見守る。 不意にロザリアは怒りの形相で顔を上げると、手にした杖を振りかざして声を張り上げた。 「守護聖を集めなさい!今すぐに!!」 もちろん、その言葉に逆らえる者は唯の一人もいなかった。 招集がかかって、守護聖の中でも年少の者達は気まずそうに顔を見合わせた。 「どーすんだよ!」 こそこそと、だがはっきりとランディは目の前の少年を糾弾する。 「だから俺は反対したんだ!!」 「でも、女王陛下の命令じゃしかたねーだろ」 その剣幕を真っ向から受けて、ゼフェルもランディを睨み返す。 その二人を困ったように交互に見ながら、マルセルは口を開いた。 「もー止めなよ、二人とも!!それにゼフェル!陛下は「命令」じゃなくて「お願い」って言ったんだよ」 「あーそうだったな。つまり、断る余地はあったわけだ」 勝ち誇ったように紅い目を輝かせて、ゼフェルは言葉を続けた。 「でも結局その「お願い」を聞いちまったのは、お前もだろ」 「ぐっ!!」 さすがのランディも言葉を失ってしまう。 「命令」なら従うが、「お願い」は叶えてあげたくなるのだ、あの少女は。 自分に出来る事なら何でもする―――その誓いを唯の一瞬も彼は忘れた事は無い。 だからこそ、自分を頼ってくれた少女を無下にする事も出来ずに、結局強く引き止める事も出来なくて こうなってしまったのだから、今さら何を言っても始まらない。 「『It's no use crying over spilt milk.』、だ。遅かれ早かれこーなるのはわかってたんだから、いー加減覚悟を決めろってんだ」 「もぉー、ゼフェルもそんな言い方しなくてもいいじゃない。…とにかく、これからどうしよう。陛下が抜け出すの、僕達が手助けしたって、バレちゃうのかなぁ」 困ったように俯いたマルセルを横目で見ると、鼻を鳴らしてゼフェルは言った。 「んなの、黙ってりゃいーだろ。陛下もそうしろって言ったんだし、俺達が余計なこと言って陛下が捕まったら元も子もないってーんだ」 「お前………」 ゼフェルのいっそ潔いほどの開き直りを羨ましく思いながら、ランディはそこまで割り切れない自分と 折り合いをつけるために、とりあえず溜息を一つこぼした。 だんっ! っと杖の先が大理石の床を叩いた。 本来女王陛下がいるはずの玉座は空っぽのままで、そこから一段下がったところに立ったロザリアは、謁見の間に居並ぶ守護聖の面々を見渡した。 ただ、闇の守護聖の姿が無い。 リュミエールに問うと、召集の旨は伝えたが遅れるとの事だった。 けしからんとジュリアスはいつもの様に列火の如く怒りを露わにしたが、時は一刻を争うため、とりあえず用件を進めることにする。 「女王陛下が聖殿を出奔なされました」 その気迫に押されたのか、幾人か体を竦めたり、不自然に硬直したりしたのだが、それには構わずロザリアは言葉を続ける。 「このような事、他の者に知られるわけにはいきません!我々だけでお捜しして連れ戻します!!いいですね!!」 はいっ、と了解の言葉が聞こえると、ロザリアは杖を横にして両手で握りなおした。 代々補佐官に伝わるその宝具を今にもへし折りそうで、ある者はハラハラしながらその様子を見ている。 怒りを必死で抑えているためか、小刻みに震えながら、ロザリアは怒りの言葉を紡いだ。 「まったく…あの子ときたら、執務が苦手なのは重々承知していたけど、まさか逃げ出すなんて…」 不意に杖を横に薙ぎ払い、もはや独白ではなく、高らかに宣言した。 「でもこのロザリア・デ・カタルヘナから逃げられると思っているのかしら?いい度胸ね、アンジェリーク!! みてらゃっしゃい、必ず捜し出してみっちりお説教してあげるから!!」 そして口元に手を当てて高笑いをする。 一同はその時同じ事を考えた。 ―――こちらの方が、ある意味女王らしい………と 結局、打ち合わせに姿を見せなかったクラヴィスに経過を伝える為、リュミエールは通いなれた執務室を訪れた。 そこは昼であってもなお暗い。 ゆっくりと闇に瞳を慣らしながら、水晶球を眺めているクラヴィスに遠慮がちに声を掛ける。 クラヴィスは視線をリュミエールに向けただけで先を促した。 会議の顛末を伝えると、クラヴィスはそうか………と短く呟いて、再び水晶球に視線を落とす。 「さて、陛下はどこまで持つかな?」 「クラヴィス様?」 他の者にはわからぬ程度だが、その声に楽しげな響きを感じ取って、リュミエールは不思議に思った。 そして水晶球に何が映っているのかを察し、驚いたようにもう一度その名を呼ぶ。 クラヴィスはその口元に薄く笑みを浮かべた。 それはリュミエールも久しく見なかったほど、愉快そうな………けれども穏やかな微笑だった。 それから暫くして、リュミエール越しに伝えられたクラヴィスの意地の悪いヒントは、ジュリアスに聖地中に 響くほどの怒鳴り声を上げさせた。 ―――曰く、女王陛下は聖殿どころか、聖地にすらいない………と 「あ奴は判っていながら、何故そういう重大な事を早く言わぬのだ?!職務怠慢だーーーーーっ!!」 太陽もその身を半分山端に隠した夕暮れ時。 アンジェリークは夕日で赤く染まった噴水の淵に腰掛けて俯いている。 それは迷子の様でもあり、待ちぼうけを喰らっているかの様でもあった。 不意に陽が翳って、誰かが夕陽を背に自分の前に立ったのだと気付いた。 その人物を見上げて、アンジェリークはにっこりと微笑む。 「最初に来てくれるのはあなただと思ってたわ」 自分の当惑に気付いたのか、噴水から立ち上がって彼女はふふふ、と可笑しそうに笑う。 「今日はね、女王に感謝と祈りを捧げるお祭りだったんですって。だから来ちゃった」 そして後ろで手を組んで、軽い足取りで数歩歩く。 クルリと振り返るアンジェリークの表情(かお)は、笑っているけど妙に寂しげで、抱きしめたくなって慌てて その手を引き留めた。 彼女は「女王陛下」で そして自分にとって何よりもかけがえの無い「女の子」で 何度こうして自制を利かせて来ただろう。 そろそろ押さえに自信が無くなってきてはいたが、今回は成功してほっと胸を撫で下ろした。 自分の側でそんな葛藤に苦しんでいる者がいる事を知ってか知らずか、アンジェリークは言葉を続ける。 「民の望みはいつだって感じるけど、女王候補の時みたいに民の言葉を直接聴く事は無くなったから、 せめて今日はみんなの望みをちゃんと聴いてみたかったの。 こうして時には市井に下りて、民の望みを確かめて、それが私にしか出来ない女王だと思ったし、 私のなりたい女王でもあったから」 それに………とアンジェリークは瞳を伏せる。 「ちゃんと自分がみんなの望みを叶えてあげられてるのか確かめたかったの………駄目よね、 こんな頼りない女王様じゃ」 そう言うアンジェリークの姿は、普段の快活な彼女とは思えないほど、今にも夕陽に溶けてしまいそうに淡く、儚く見えた。 存在を確かめたくてその手を握ると、驚いたようにアンジェリークはその手を見て、そしてこちらを見上げて微笑んだ。 「………帰りましょうか、きっとみんな心配してるわ」 手を繋いだまま二人は歩き出す。 自分からそうしたくせに、その手をどうしたらいいか判らず、でも離してしまうのも惜しくて、結局そのまま誤魔化すように違う話題を振った。 「え?大丈夫よ、ちゃんと一人で怒られるわ。心配しないで、覚悟はしてきたから」 何故かこれから待つ怒涛のお説教地獄を前に、彼女はむしろ嬉しそうに笑った。 事実嬉しいのだろう。 自分を必要としてくれる誰かがいる事 自分を心配してくれる誰かがいる事 自分を捜してくれる誰かがいる事 自分を怒ってくれる誰かがいる事 それは何より自分を想っての事だとわかっているから。 そして思う。 誰よりも「想い」を知っているこの少女は、結局誰よりも「女王」に相応しいのだと。 それから、予想通りロザリアとジュリアスからステレオでお説教されて、アンジェリークは小さくなりながら辟易としていた。 そして説教が一段落した隙をつき、瞳を潤ませて二人を見上げて「ごめんなさい」と謝ると、さすがの二人もそれ以上何も言えなくなり、 「わ…判ればよろしいんです」 「まあ、これからはそのような時はきちんと我々にご相談して下されば………」 と早々に許してしまう。 ロザリアは自分の甘さに嘆息したが、お説教が終って瞳を輝かせるアンジェリークの顔を見れば、 結局これで良かったなんて思ってしまうのだから始末に終えない。 しかも、 「今日はたくさん民の望みを聴いて来たから、明日はいっぱい頑張るわね」 なんて両手を握りしめて殊勝な事まで言われれば、完全にノックアウトだ。 もはや彼女に出来る事は 「そのお言葉、ゆめゆめお忘れにならないよう願いますよ、陛下」 と嫌味めいた事を言うのが精一杯。 それでもアンジェリークは「はぁい」などと女王陛下にはあるまじき返答を返して、とびっきりの笑顔をロザリアに向ける。 その笑顔につられる様に、ロザリアの顔にも優しい笑みが浮かんだ。 何だかんだ言っても、彼女はこんな日常と女王陛下を気に入っているのだった――― |
K家姉 妄想日時:’08.2.11 妄想場所:某所駐車場 大崎さんとした、妄想トークの集大成。というか寄せ集め。 僕らはリモージュ(金アン)が大好きなんだーーーーっっっ!!っていうのを感じてくれれば幸いです。 ちなみにコレットは温和ちゃんが好きv そういや無駄にゼフェルに英語を喋らせてみましたが、つまりこれは「覆水盆に返らず」ですよ。 メジャーなことわざなので、注釈は不要でしたでしょうか? |