ペルソナ3
         
08.8.12          
 Heart shaped killing emotion




真っ白だった世界が一瞬でクリアになる


意識が飛んでいたことに気付いた瞬間、視界いっぱいに広がるシャドウの姿。
「有里!!」
焦ったような声が聴こえた、順平だろうか。
「っ!!」
その声に弾かれたように、闇雲に腕を振る。
剣の切っ先が僅かにシャドウを掠り、予想外の反撃に焦ったのは相手の方だった。
体全体で押しつぶそうとしていたのを、慣性の法則を曲げてまで無理に軌道を変える。
だが、その無茶な動きの所為で足の止まったシャドウを見逃す湊ではなかった。
横薙ぎにした腕を頭上に掲げ、そのまま一気に振り下ろす。
袈裟懸けに切り捨てられたシャドウは、そのままどぅと後ろに倒れて、その名の通り影のように消えた。
ほんの一時の間の攻防。
一瞬遅れていれば、ああして倒れたのは自分の方だったろう。
肩で息をしながら、湊はシャドウの消えた辺りの地面を見下ろした。
周囲の敵は一掃したのか、仲間達が駆け寄ってくる。
コロマルが足元にお座りして、気遣うようにこちらを見上げ首を傾げれば、ゆかりが傷を癒すためにイシスを呼んでいる。
落ち着きを取り戻しつつある湊の視界に影が差す。
それが、自分の前に立った順平である事を、湊は目だけで確認した。
そして、明らかに順平が怒っている事も。
「有里!!一人でつっこんでんじゃねぇよ!!」
胸倉を掴み上げられ、至近距離で怒鳴られても、湊はぼんやりと順平を見ていることしか出来なかった。
ゆかりの癒しの術に傷が癒えたにも関わらず、だ。
「やめなよ、順平」
順平は湊を庇うゆかりを一瞥して黙らせると、言葉を続けようと湊に向き直る。
だが、そこから湊を責めるような言葉は放たれなかった。
その代わり、呆然と順平は呟く。
「有里………お前………」
順平が見たもの、それは胸倉を捕まえられているため、何とか立っているものの、 もはや意識の半分以上を失い、ただ、ぐったりと荒い呼吸を繰り返している湊の姿だった。



次に湊が気付いたのは、朝の陽光によってだった。
身支度を整え、部屋を出る。
階段脇の談話スペースを通り抜けようとしたその時、そこに順平がいるのに気付いた。
向こうはとっくに気付いているらしく、険しい目で湊を見ている。
「………おはよう」
「………おぅ」
何か言いたい事がありそうなのだが、順平は引き止める言葉も無く、ただ湊を見ている。
湊はポケットから小銭を取り出すと、適当な飲み物を買って順平の向かいに座った。
「もう、体はいいのか」
「疲労は残ってるけど、風邪ひいたわけじゃないから。大丈夫、今夜もタルタロスに行くよ」
「そういう事言ってんじゃねぇ!!」
今まで淡々と喋っていた順平が急に声を荒げて立ち上がったので、湊は驚いて順平を見た。
順平は怒っている、多分昨夜からずっと。
「俺だってよく一人で突っ走るし、人の事言えた義理じゃねぇのかもしれねぇけどよ!最近のお前は無茶しすぎだぜ!」
怒りを露わにし見下ろす順平に、口を挟む事も出来ず、ただ湊は順平の言葉を待った。
しばしお互いに睨み合うように視線を合わせて、黙り込む。
先に眼を逸らしたのは順平の方だった。
体全体で溜息を吐き、そのまま脱力したようにドサリと椅子に座り込む。
片手で頭を抱え込むように帽子を掴むと、先ほどの勢いはどこへやら、搾り出すように順平は言葉を紡ぐ。
「わかってるよ、お前が焦ってるのなんて。俺たちだってそうだ。どんだけタルタロス行っても不安だしよー。 リーダーのお前なら尚更だろ。でもよ、ニュクスがやってくる前にぶっ倒れちまったら元も子も無ぇだろうよ………」
ちらりと順平が湊を見る。
「ってー事で、今日はタルタロスは休みだ。みんなでそう決めた。だから今日は一日中休んでろ」
「でも………!」
「言いたい事はわかっけどよー、簡単に隙作って敵にクリティカル喰らうわ、 イキナリ疲労でぶっ倒れるわ…リーダーのお前がそんな状態じゃ、俺たちだってヤバイんだって。 だから今日はちゃんと休む!で………」
ふっと順平は表情を和らげた。
気遣うように笑みを浮かべて、言葉を続ける。
「明日っからまたバリバリタルタル登ろうぜ。時間が無いのは確かだしな。俺たち、もっと強くならねぇと」
しばし逡巡していた湊が、やがて了承の意を示すと、にっっと順平は笑みを浮かべた。
だが、それはすぐに真面目なものに変わる。
「でもよー、焦んのはわかっけど、お前のは異常だぜ。そりゃーお前はあと1ヶ月足らずの命です、 時が来たらみんな死にますって言われりゃ、誰だって穏やかじゃいられるわけねぇけどよ」
「………俺が…」
「ん?」
「俺が………綾時を殺せなかったから、みんなにも辛い思いをさせてるんじゃないかって」
ぽつりと放たれた湊の言葉。
その言葉に順平は目を見開いた。
まるで罪の告白をするように語りだした湊の目は、すでに順平を見てはいなかった。
表情こそいつもの無表情ではあったが、それはともすれば溢れ出しそうになる想いを、 必死に押し殺しているだけに過ぎない。
それは、湊が今までに幾度と無く繰り返している自問自答だった。
またそれは、普段自分の事を口にすることが無い、湊の胸中でもあった。
だから順平はただ湊の懺悔に耳を傾けた。
「綾時が言ったとおり、ニュクスを倒すことなど出来ないのなら、綾時の望むとおり綾時を殺して、 全部忘れて、その時を待つべきだったのかって、今更考えたりするんだ。俺が勝手に決めて、 みんなを巻き込んで、結局滅びの時が来るのを怯えながら、命がけでタルタロスに挑んで……… だったらせめて、勝率を上げるためにも俺がもっと強くならないとって思って………」
最初は黙って湊の言葉を聴いていた順平だったが、次第に落ち着き無く視線を彷徨わせ、 終いには焦れたように帽子を被ったままの頭を掻いた。
「それに………」
「あーーー、もうわかったよ」
なおも言葉を続けようとした湊を遮った順平は、テーブルに手をつくと、 ずいっと湊に向かって身を乗り出した。
「あのなぁー、お前、勘違いしてるぞ」
顔を近づけて、湊の目を覗き込む。
湊はきょとんとしたように、順平を見返すだけだった。
「あれはな、お前一人の選択じゃねぇってぇの、俺たちの総意だって事を忘れんじゃねぇ」
そう言って順平は溜息を一つ吐いた。
「そりゃあ、事情が事情とはいえお前一人に重大な選択を任せちまったのは、俺たちも悪い。 でもよー、俺たちはお前なら俺たちと同じ答えを出してくれるってわかってたから、任せたんだよ。 そうだろ?誰か責めたか?!綾時を殺さず今を続けた事に、誰がお前に文句を言ったよ?!ああ?」
「順平………」
「大体そう簡単に人が殺せるかってーんだよ。綾時殺して全部忘れて、せっかく築いた絆も失って、 でも結局死ぬくらいなら、ほんのちょっとの可能性でも足掻いて足掻いて足掻きまくって、 滅びの時を笑って乗り越えてやる…それが俺たち課外活動部だろうが」
「順平………あいつは…」
湊が眼を逸らす。
「あいつは人じゃない………どうせ消える存在だからって本当の姿まで見せて…俺に殺せって言ったんだ」
「でも殺せなかったんだろ」
きっぱりとした順平の言葉に、湊は顔を上げる。
順平は笑っていた。
「殺せなくて当たり前だっつーの!何であろうと綾時はダチだぜ、ダチ!俺がお前の立場だったとしても、 殺せるわけねぇよ」
言ってとくケド、アイツはお前だけのダチじゃ無ぇんだからな、と言って順平は笑い声を上げる。
「だからよ、お前だけが責任感じる必要なんて無ぇんだって。大体お前一人だけ強くなってどうすんだよ、 戦ってんのはお前一人じゃ無いだろ、この順平さんを頼りなさいってんだ」
抱え込むように湊の頭をくしゃりと撫でると、その腕の下から、いつもの調子を取り戻したのか、 湊がニヤリと笑みを浮かべる。
「いっつもシャドウの術でヤケクソになって、防御忘れて突っ込んでく順平に頼るのは ちょっと心許ないけどな」
「ってんめぇ〜〜〜、人がせっかく優しくしてれば、調子乗りやがって〜〜〜」
湊の頭に乗せていた腕を振り上げて殴りかかろうとすれば、それを湊はひょいと僅かに頭を振って軽くかわす。
そして、立ち上がると、携帯を取り出して言った。
「じゃあお言葉に甘えて、今日は休ませて貰おうかな。えーっと、今日は結子と千尋ちゃんどっちを誘おう」
「おまっ!!休めって言ってんだろうーが!何羨ましい事言ってんだ!!」
「ありがたく休ませてもらうけどね、そろそろ二人とは会っとかないとヤバイんだ。ちょっと会って話すだけだから、無理はしないよ」
女の子は怒らすと怖くてさ…と、高速でメールを打ちながらぼやく。
そして、パチンと携帯を閉じると、順平に背を向けた。


階段を下りていった湊の姿が見えなくなると、順平は壁に背を預けた。
帽子を顔を隠すようにずらして、天を仰ぐ。
去り際に辛うじて聴こえた湊の言葉を反芻しながら、順平は「くそっ」と毒づいた。

「ありがとう、順平」

背を向けてそう言った湊が何だか遠く見えて、理由もわからないのに順平の目から一筋の涙が零れた。


決戦まで、あと僅か―――




K家姉
妄想日時:’08.7.26
妄想場所:家

名前は一応公式ネーム「有里 湊」で。
ちなみにウチの主人公は「石田 彰」です(笑)。
他の人が付けてるの見て、名前とイメージが合っているのに笑って、 私もつけてみました。
セーブデータいっぱいに「石田 彰」と表示されるのは、中々壮観です。
………特に中の人のファンというわけでは無いのでご注意(笑)。
一応、大晦日後のお話です。
レベル上げで、大体1ターン目の主人公君で敵殲滅してしまうの見て
(代わりにどんどこSP無くなってくのを見て)、
「何かウチの主人公君生き急いでるなー」と思ったのをSSにしてみた。
つか、今回のSSの主人公君珍しくウジウジしてる(汗)。