ガンダムSEED 
ディアッカ×イザーク       
04.03.14          
 HEAT OF THE NIGHT

音も立てず、時計が日付を変える。
消灯の時間はとうに過ぎていたが、規律違反を犯して なお起きている不届者がいた。
「…仕方無ぇよな」
ディアッカは肩を上下させて大げさにため息をついた。
自分の後ろ姿を恐らく見ているであろう、同室のイザークへの 抗議の意味も
たっぷり含んで。
ディアッカの目の前には半壊したベッドがあった。
「…アスランが悪い…」
背後からぼそりとイザークが言う。
そう言うイザークが今、どんな顔をしているかわかるから、 振り返る事もせず
ディアッカは言った。
「他人(ひと)の所為にすんじゃないの。実際壊したのはお前なんだから」
「あいつが生意気なのが悪いんだ!」
むっとしたようにイザークが声を荒げる。
対してディアッカはあくまで冷静に、ただ事実を語る。
「大体『年下年下』って馬鹿にするくらいだったら、最初から相手に しなけりゃいいだろ。
それをまともに勝負して、負けて 物に当たってるようじゃ、よっぽどアスランの方が…」
「ディアッカ、貴様…っ!」
しまった、言い過ぎたか…。
イザークの声から感じ取れる怒りの感情に、ディアッカはバレ無いように舌打ちした。
だが、真実は真実。
今日は、ボードゲームだったか軍人将棋だったかに負けて、怒り狂ったイザークは
部屋中のものに当り散らした。
そう、イザークとディアッカの相部屋の中で。
お前だけの部屋じゃないんだ、とか、誰が片付けると思ってるんだ、とか
ディアッカの必死の抗議は、ついにイザークの気が静まるまで受け入れられることは
無かった。
その過程でディアッカに割り当てられた、作り付けのベッドが 使用不能なまでの
惨めな状態になったわけだが…。
その時の事を思い出そうとして、ディアッカは小さく首を左右に振った。
止めとこう、思い出せばきっと今夜はうなされる。
「…い…おい…っ!おい、聞いてるかディアッカ!!」
「うわっ!あ…あぁ…」
意外に近い所からイザークの声が聞こえて、慌ててディアッカは応えた。
「?…まぁいい、つまりそういう事でアスランが悪い。大体貴様は最近口答えが多すぎるぞ」
「そうか?」
「そ・う・だ!」
やれやれ。
ディアッカは小さくため息をついた。
ほんの数刻前までの惨状を思い出している間、イザークはずっとアスランとディアッカへの
不満を語り続けていたらしい。
今度は堂々と深く長く息を吐いて、ディアッカは辛うじて無事といえる毛布を、 ベッドであった
ものから拾い上げた。
「?何をするんだ、ディアッカ」
「決まってるだろ、消灯の時間は過ぎてる、寝るぜ」
「まさか、床で寝る気か」
「しょうがないさ」
そう言って、やっとディアッカはイザークを見た。
「ベッドは誰かさんに壊されちまったし、他にどうしようも無いだろ」
「他のベッドで寝るとか…」
「この艦に何人乗ってると思ってんだよ。ベッドの空きなんてあると思っているのか」
「だが…」
「他に行く所も無ぇし、別に構わねぇよ。それより明日のメニューもきついぜ。
寝ないと体ガもたねぇぞ。 じゃあな、おやすみイザーク」
「あ、おい」
躊躇いも無く、毛布一つにくるまって床に寝転がったディアッカを見て、イザークが
戸惑いの声を もらした。
お坊ちゃま育ちでプライドの異常に高いイザークには、床で寝るという行為そのものが
信じられない事なんだろう。
だが、実際寝転がっているのはディアッカでイザークでは無い。
なぜ、イザークがそんな風に困惑しているのか、ディアッカには良くわからなかった。
(イザークの性格なら誰が床で寝てようが気にしないと思ったけどな)
イザークに背を向けるようにして、眼を閉じる。
(あ〜あ、俺も何やってんのかね)
例えどんな原因があろうとも、イザークがディアッカの安眠の場を奪った事には変わり
無い。
それを盾にイザークのベッドの所有権を訴える事も出来たはずだ。
(そんな選択肢、最初から俺の中には無かったし)
床で寝ることを決めたのはディアッカだ、しかし妙に虚しい気持ちになるのを抑える事は
できなかった。
(俺って健気)
そして本格的に眠りに落ちようとしたその時。
強引に毛布を剥ぎ取られた。
勢いあまってディアッカは転がり、半壊したベッドの足にぶつかって止まる。
「っ痛〜」
夢うつつの所を強引に現実に引き戻されたのだから、大した事無くても衝撃は大きい。
こんな事をする唯一の人物を、ディアッカは恨みがましく見た。
「何すんだよ、イザーク」
「ふん」
イザークは涼しい顔でディアッカを見下ろすと、ベッドを顎でしゃくった。
「貴様が俺のベッドで寝ろ。俺が貴様のベッドを使用不能にしたのは事実だからな。
まあ俺は貴様がどこで寝ようが気にしないが」
「そりゃあ…」
意外な言葉だった。
「どうゆう風の吹き回しで」
「黙れ」
ディアッカの質問はイザークに一蹴されてしまう。
恐らくこの先も答えが返ってくることは無いだろう。
ただ、取り澄ましたいつもの綺麗な顔が、ほんのり赤く色付いていた。
多分イザークなりの詫びのつもりなのだ。
素直に謝る事が出来ないイザークに、ディアッカは苦笑いをもらした。
それを見たイザークに睨まれて、ディアッカは慌てて誤魔化す。
「で、お前はどうするんだ」
「貴様が気にすることじゃない」
「気になるに決まってるだろ」
そう言って、無様に転がっていた床からディアッカは立ち上がった。
「消灯過ぎてから出歩いてるの、見つけられれば規律違反で怒られるぜ。かといって
イザークを床で眠らせるくらいなら、俺が床で寝る。あぁ、一晩中起きてるってのも
あるけど、徹夜なんかしたら明日の戦闘の最中にぶっ倒れるの目に見えてるぜ」
「ぐ…」
言葉に詰まったイザークが、怒りと迷いの満ちた目でディアッカを見た。
そしてその眼は迷いの答えを求めているようにも見えた。
(あ〜あ、だからあのまま寝かせときゃ良かったのに、根がいいヤツってのは損だよな)
「一つだけ、いい方法があるんだけど」
「何だ」
いたずらを仕掛ける直前の子供のように、ディアッカは笑った。

「おい、狭いぞ」
文句を言いつつ距離を取るイザークの体を、ディアッカは腕一本で引き寄せた。
「近づくな」
「そんな事言ったって、あんまそっち行くと落ちるぞ」
わざと耳元で囁くと、びくりと身を強張らせてイザークは大人しくなる。
「シングルなんだからさ」
「…ふん、ならば仕方ないな」
背中を向けられているので、イザークがどんな顔でそう言ったのかわからないのは
残念だったが、言い訳じみた口調にディアッカは笑みをもらした。
ディアッカが提案した『いい方法』とは、イザークのベッドに二人で寝るという 単純明快な
ものであったが、イザークは何故かそれに難色を示した。
結局なだめすかして二人仲良く…とはいいがたいが、何とかベッドに横になったが。
(うわぁ、寝るの勿体ねぇ)
プラチナの髪越しに見える首筋に、暖かな体温に、鼓動が早くなるのを感じて、慌てて
ディアッカは視線をそらせた。
(今の幸せの為に我慢だ、俺)
変な気を起きるのを、奇跡的な忍耐で辛うじて堪えた。
(つうかこの状況で俺、寝れんのか)
明かりを消してしばらくすると、イザークの定期的な寝息が聞こえてくる。
(あ〜あ、俺って安心できる男ってヤツ?)
警戒されていないのがわかって、自嘲の笑みを浮かべた。
(本当はお前にとって世界で一番危険な男かも知んないのにな。まぁ、同性の仲間が
自分に変な気起こすとは普通思わないけど)
「ん…」
不意にイザークのかすれた声が聞こえて、ディアッカは思考を止めイザークを見た。
もぞりと身じろぎをして、イザークが寝返る。
うっかり閉じたまつげの長さを、甘やかな唇を、シャツから覗く鎖骨を間近で見てしまい、
一度は抑えた欲望が再び沸き起こる。
(ここが我慢のし時、耐えろ〜)
必死にどうでもいいことを考えて、再び欲望をやり過ごした頃には、ディアッカは
ひどく疲弊していた。
(これじゃ床で寝てた方がよっぽどマシだっての)
生殺し状態に毒づくと、目を閉じる。
こうしていると体温の他に、イザークの鼓動まで聞こえてくる気がする。
それは信じられない程に早くて…。
(そりゃ俺の心臓の音だろ)
それでも、心臓の音とさっきより近くなったイザークの呼吸を感じていると、とろりと睡魔が
押し寄せてきて、 待ち望んだそれにディアッカはゆっくり身を委ねた。

朝。
気温調節が出来ているはずの室内で、妙に肌寒さを感じ、ディアッカは目を覚ました。
ゆっくりと輪郭を取り戻してゆく景色の中で、昨夜あれほどまで近くにいたイザークの
姿だけが 無い。
起き上がって周囲を見回すと、扉が開き、既に身支度を整えたイザークが入ってきた。
「起きたか」
「あぁ、はよ」
いつもどおりの朝の挨拶を交わす。
ちらりと時計を見ると、朝食には辛うじて間に合うものの、いつもの起床時間は当に
過ぎていた。
「今、起こそうと思ったところだ」
「何、今日は寝坊見逃してくれんの?珍しいじゃん」
普段は起床時間になれば、嫌でも叩き起こすくせに、とは保身の為に口には出さないで
おいた。
「昨夜遅かったからな」
「気遣ってくれたってわけ?ありがたいね」
「減らず口を叩くな」
ぴしゃりと言われて、ディアッカは肩を竦めた。
大人しくなったディアッカを一瞥して、イザークは言葉を続ける。
「二人部屋を一人で使っていた奴がいて、そいつが部屋を替わってくれる。
とっとと支度しろ」
「はいはい」
ディアッカは立ち上がると、手早くわずかな荷物をまとめた。
(相部屋解消だな。これで平和になるね)
嘘つき。イザークが傍にいないのであれば、平穏な日常など望まないのに。
しかし、平静を装って別れの言葉を掛けるためイザークを見る。
するとイザークもすっかり自分の私物を片付けていた。
「イザーク…?何でお前まで。俺がそいつの部屋で寝るって話じゃねぇの」
疑問を素直に口にすると、イザークが信じられないというようにディアッカを睨んだ。
「貴様っ!寝呆けて人の話を聞いていなかったのか?!俺は部屋を交換すると
言ったんだぞ。 いつ、お前が部屋を変えると言った!!」
真っ直ぐに見つめる強い藍色の瞳。
ディアッカはいつの間にか口元に笑みが浮かんでいるのに気付いた。
自覚すると更に笑いがこみ上げてきて、声を殺しても体中で笑っていた。
「何がおかしい?!」
「いや、ただこんな半壊した部屋と交換させられるそいつが気の毒だと思ってさ」
「…それについては悪く思ってる」
拗ねたように視線を逸らすイザークがまた可笑しくって、
「あーあ、やっと平和な日々がやってくるとおもったのにな」
うっかり口を滑らせてイザークに詰め寄られる。
「ディアッカ!」
「あ〜悪かった、悪かったって」
謝っているのに笑ったままでは説得力が無い。
わかっているのに笑いは止まってくれない。
「…腰抜けのくせに」
必死に笑いを堪えようとしているディアッカを憎々しげに見て、小さく吐き捨てるように
イザークが言う。
それからしまったというようにディアッカの表情を窺ったが、ディアッカは笑い転げている
だけで イザークの呟きなど聞いていないようだ。
安心したように、そしてほんの少し残念そうにため息をつくと
「とっとと部屋換えするぞ。でないと貴様、朝食に食いはぐれる羽目になるがいいのか」
と言い捨て部屋を出る。
「ああ、そうだな」
ようやく笑いをおさめたディアッカが慌ててイザークの後を追う。

どうやらまだしばらくは、このまま騒がしい日常が続くようだ。




妄想日時:’04.3.2
妄想場所:ジュール隊長親衛隊K家姉部屋支部

二つくらい妄想がミックスされています。
その所為か長い長い。ココまで読んでくださってありがとう&お疲れ様。
ところで、K家姉的にはディアイザは色んなパターンがあって、
今回のは両思いだけどまだ出来てない二人verです。も…もどかしい。
他にも、片思いverとか既に出来ちゃってるver等々各種取り揃えております。
つうか、意外にディアッカが一途で健気で「偽者じゃねーの?」と思わないでも無く…。