花帰葬
王子×従者         
08.3.14         
 愛のままに我がままに僕は君だけを傷つけない:side青年

俺にだって夢はあったはずだ。
色んな店で修行して、いつかは小さくても自分の店を持って、可愛い奥さんと2人で切り盛りする…そんなささやかでありふれた夢。
それがどこで狂ってしまったのだろう。

何故今、俺は『男』と床を共にしているのか。

悲しくなってきた。
無理矢理寝台に引きずり込んだ相手はそんな彼に気付かずに、今にも一服ふかしそうな満ち足りた笑顔を彼に向けている。
さっきまでは、見たこともないほど暗い顔をしていたというのに。
今は彼の方が、納得いかない味付けをしてしまった料理人のように気難しい顔をしている。
一度目は無理矢理襲われて、二度目は諦めて許容したら、三度目を強要されて、行為の終った今、寝返りをうつのも億劫なほど彼は消耗していた。
体力に自信が無いわけでは無いが、抵抗するのに余分な気力体力を消耗しているのだろう。
かといって、黙って受け入れてしまうのも躊躇われ、結局いつも同じ問答を繰り返しながらこうなってしまうのが常だった。

そもそも最初が良くなかったんだ。

と、彼は苦虫を噛み潰したような渋面を浮かべる。
武闘会の後、結婚を強要する王子…いや『救世主』から逃れて、黒の鳥と身を隠していた彼を迎えに来た王子の言葉にうっかり動かされて。
城に戻ってきた晩、縋り付いて自分を求めてきた王子を振り払えなくて。
関係を持ってしまったのが、元凶だったのだと頭を抱える。
確かに腕は王子のほうが上とはいえ、単純な力や対格差から、殴り倒してでも逃れる術はあったのだ。
だが…行為に対しての嫌悪はあるにせよ、王子自身を拒絶する意思は無かった。
だから、中途半端な抵抗と受容を繰り返し、ここまでなし崩し的に関係を続けてきた。
それが良くなかったのだ、と彼は眼を閉じた。
あれ?寝ちゃったの?と、今では誰よりも聞き慣れた声が囁く。
いつになく気を遣ったその問いかけに返事をしないまま、ただ彼は自分の思考の海に身を沈めた。
彼はいずれ『王』になる身で、その時に彼の言うとおり后として男の自分が立ったら国民は…諸外国はどう思う。
もう金輪際、こんな事は止めさせなければならない。
自分の為に『王』になると言ったあの日から、王子は時折『王』になるべく者として相応しい立ち居振る舞いを見せるようになった。
講義をサボるのは相変わらずでも、その分自ら補習をしているのも知っている…だったら最初からサボらなければいいものだが。
『玄冬にしない』と言ってくれた王子の気持ちが嬉しかった…だが、だからこそ自分は王子と共に歩けない。
主従関係云々の前に、そもそも男同士なのだ…当たり前のことなのに、何故か胸が痛んだ。
彼は良い『王』になるだろう…ならば、相応の后を娶るべきだ。
それが彼のため…今ならまだ王子の気まぐれ、笑い話で済むのだから。
痛みを押し殺し、彼はゆっくりと目を開いた。
「あ、ゴメン、起こしちゃったかな」
寝ているとばかり思っていた彼が、身を起こして自分を見たことで王子は少し驚いたようだった。
「いや…最初から眠ってない」
彼は短くそう言って、王子に向き直る。
「それよりも、お前、いつまでこんな事を続ける気だ?」
え?と王子が怪訝そうに聞き返す。
「だから、俺にこういう事をするのをだ。『王』になるのならいつまでもこんな事を続けてなんていられないだろう」
努めてなんでもない素振りでそう言うと、何故急に彼がこんな事を言い出したのか合点がいったらしく、王子は小さなけれども穏やかな笑みを浮かべて眼を伏せた。
「本当は僕は『王』になんてならなくても良かった…もし相応しい人物が現れたら、そいつに王位を譲って、君とどこか静かな場所で二人で暮らそうとも考えてた。…でも」
王子は決意を秘めた強い眼で、彼を真っ直ぐに見る。
「僕は君を『玄冬』にしない…その為に『王』になるって決めたんだ。もう、誰にも譲らない」
「ならば、后には然るべき令嬢を選ぶのだろう。これ以上俺にこんな事をして醜聞を広めるような真似をするな。今はまだ早いとはいえ将来の縁談に響くぞ」
「何言ってるんだよ」
きょとんと王子は彼を見返す。
「僕は最初から言ってるじゃない。『誰にも有無を言わさず、君を嫁に貰ってみせる』って」
その王子の口からサラリと出た、洒落とも嘘とも思えない言葉に彼は声を失った。
たっぷり数秒動きを止めている間に、王子はこんな時だけ可愛らしい仕草で小首を傾げてみせる。
まるで何故、今更そんな事を彼が口にするのか不思議だと言うように。
「待て、お前は『王』になる人間なんだから、当然世継ぎの話も出てくるだろう。そもそも対外的に考えて男を后に娶るなど、いい笑いものだ」
「別に、王位を継ぐのは王の子である必要はないよ。僕以外にも王位継承権を持つ傍流の子供はたくさんいるんだし、実際王に子供が出来なくてそういう子供を王にした例も過去には幾つもある。 これで問題は一つクリアね」
王子は指を折って数える。
「だが、この国の長い歴史をみても男を后に娶った王などいないだろう」
「別にいいじゃない、一人くらいそんな王がいても」
彼の言葉に王子は何でもないように言う。
「物好きな王だと侮らせる気は無いよ。それに他の誰にも君の事をどうこう言わせない。 君は王の寵愛を受けるに相応しい人間だって必ずみんなに納得させてみせる…預言師殿も協力してくれるって言ってるし」
最近、近衛隊の訓練とは別に設けられたお后修行という名目の、預言師のいびり…いや指導を思い出し、彼は頭痛を覚えた。
針の先ほどの小さいミスでも目ざとく見咎め、すぐさまお小言といやみが飛んでくる。
だが、なるほど、あの授業を耐え抜けば完璧な淑女が出来上がるだろう…なる気も無いが。
「ほら、後は本人達の気持ちだけじゃない」
悲壮な表情(かお)の彼とは正反対の晴れやかな笑顔を彼に向ける。
それから瞳を覗き込むように、身を寄せて言った。
「誰にも君を傷つけさせない…だから、僕のものになってよ」
ずるい…と思った。
普段は彼の意思など関係なく自分の我を通すくせに、こんな時だけどこか怯えたような眼で、王子は自分を見上げてくる。
彼はただ、深い溜息を吐いた。
「馬鹿、守るのは俺の方だ。一応近衛の騎士なんだから」
なりたかったわけじゃないけどな…と眼を伏せて彼は付け加える。
返事を誤魔化されて、むぅっと不満げに王子は頬を膨らませる。
それから、そっぽを向いて言った。
「ふ、ふんだ。まだまだ陛下は現役だし、時間はあるもんね。僕が即位するまでには絶対君に『うん』と言わせてみせるから」
強がりなのは明らかで。
それでも完全に拒否されなかったことにいくらかでも安堵したのか、彼の様子を伺うように紅玉の瞳だけがちらりと向けられる。
眼が合った。
それだけのことで、我慢できないと言ったように王子は表情を緩ませる。
王子は彼に笑いかけて言った。

「一緒に幸せになろう、ね!」




K家姉
妄想日時:’08.3.15
妄想場所:自室にて

実は当初と全然違う話になってたり…つか、当初が思い出せない。
そして話をむりやり繋いだので、何かぎこちない(笑)
身分関係云々や后問題は、この手のネタの基本骨子でしょう。
ちなみにラストのセリフがうっかり「一緒に冒険しよう、な」に聞こえても、それは気のせいです。
しかし、主従の話を書いていると脳内にタイトルの元となった歌がエンドレスになります。
え〜い、歌っちゃえ〜。
♪あ〜いのままに わ〜がままに 僕は君だけを傷つけない
 た〜いようが こお〜りついても 僕の君だけよ消えないで
おーいえー(笑)


愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないside王子