花帰葬
王子×従者         
08.3.14         
 愛のままに我がままに僕は君だけを傷つけない:side王子

「ねぇ、君がこうして僕の相手をしてくれるのは、僕が王子だからなんだよね」

今夜も無理矢理お気に入りの従者を寝台に引きずり込み、事を成し終えた彼は、そうポツリと呟いた。
今の彼にいつもの充足感は無い。
それもこれも、昼間に交わした黒の鳥との会話に原因はあった。

―――君はあの子の気持ちを確かめたのかい?
―――今、あの子が君に従っているのは、君がこの国の王子であの子が臣下だからだ。

言ってくれるよ…と王子は内心毒づいた。
だが、確かに彼の気持ちを聞いたことは無い。
だから黒の鳥の言い分にも、上手く反論する事ができなかった。
彼は幼い頃から知っていた。
彼の立場を利用しようとする者、機嫌を損ねないよう媚びへつらう者。
それは、いずれ彼がこの国を治める『王』となるが故。
それ故彼は孤独だった。
彼にとって幾人かの心許せる者達にとっても、結局彼は『王の子』でしかなかったのだから。
たまたま講義を抜け出して、厨房係の面接にやって来た彼を見つけた時には、言葉を交わしたわけでもないのに、彼ならば自分を『王子』ではなく、自分としてみてくれると直感した。
だから、彼だけは特別だった。
なのに、その彼すらも結局は自分を『王子』としか見てくれないのだろうか。

(それ以前に、そもそも僕達は『救世主』と『玄冬』という、本来相容れない関係だったんだっけ)

なんて、すっかり忘れていた事まで思い出してしまったりして、彼にしては珍しいほどどん底に落ち込んでいた。
シーツの纏わりつく膝に腕を乗せ、更に頭を伏せてはぁと溜息を吐く。
そんな王子の姿に、青年は眉をひそめた。
そして、気だるい腰を無理に起こして、王子の頭に

ぽん

と手を乗せ、更に

わしゃわしゃわしゃー

と王子の柔らかな髪を力任せにかき回した。
「ち………」
突然の青年の行動に、茫然として無抵抗に頭を揺さぶられていた王子であったが、その乱暴な扱いに
「ちょっと!突然何するんだよ!!」
と顔を上げて叫ぶ。
王子が自分を見た事で、彼はようやく手を止めた。
「何だ、今日はいつにも無く上の空だと思っていたら、そんな事を考えていたのか。お前らしくないな」
「うるさいなぁ…僕だって悩む事くらいあるよ」
「今日だってここまで人の事を散々好き勝手にしておいて、今更何を言う」
青年の言葉に王子は言葉に詰まった。
そんな王子に、彼は更に追い討ちをかける。
「そもそもそういう悩みは、こんな風にする前に悩む事じゃないのか」
「仕方ないじゃないか…確かめたかったんだから…」
言い訳を口にしながら眼を逸らす王子に、今度は青年が溜息を吐く番であった。
「俺は嫌だと言った筈だぞ」
「でも結局こうして付き合ってくれたじゃないか…それは僕が王子だから…」
「お前の身分を気にするなら、そもそも最初から嫌だと筈が無いだろう」
え…と、王子は青年を見た。
青年は真っ直ぐに彼を見ている。
きっと彼が視線を逸らし続けていた間も、こうして自分を見ていたのだろう。
「身分を気にする奴が『王子』の要求を断ると思っているのか。例え内心はどうであろうとも、お前の言う事に従うに決まってるだろう。お前の不興をかわない為にもな」
「それは…そうだろうけど…」
「それに、お前との『約束』はあるが、本当に嫌ならこの国を出て行く事だってできる」
「………っ!!」
その言葉に、咄嗟に王子は自分の頭を触っていた青年の腕を掴んだ。
まるでその言葉で本当に青年が消えてしまわないように。
無意識に籠められた力に、だが決して痛みを顔に表さず、ただ彼は抗うこともせず王子の成すがままにしている。
「なら…」
王子は震える声で問いかける。
「なら何で君は嫌がりながらも最終的には僕を拒まないんだよ」
「俺は男と関係を持つ趣味は無い。だが…」
そこで言葉を切って、彼は視線を逸らした。
それから、言い難そうに…でもはっきりと続きを口にする。

「お前の事は嫌じゃない」

青年の言葉に、王子は時が止まったように固まった。
「………何それ」
やがて、顔を赤らめ、精一杯といった感じでむっつりと黙り込んでしまったの青年に、ついに王子は吹き出した。
それから、何だよそれ〜と口にしながら、声を立てて笑い始める。
余りにも笑いすぎて、ついには声も出なくなって、ひいひいと息を漏らしながらもなお笑い続ける王子に、さすがの青年もむっとした。
「笑いすぎだ」
「だ…だって、さぁ…」
目じりに浮かんだ涙を拭いながら、王子は笑いを収めようと懸命に堪えた。
そしてゆっくりとした動作で王子は青年を抱きしめる。
「それって僕のことが好きだって事だよね」
「俺はそういう趣味は無いと言っただろう」
「でもそーゆーことでしょ」
そう言って見上げてくるその顔は、すっかりいつもの王子だ。
思わず青年は『しまった』と思った。
ここで突き放しておけば、今後この様な行為を要求される事も無かっただろうし、そもそも落ち込んでしおらしいくらいの方が、扱いも楽ではあっただろう。
だが………
思わず頭を押さえて、彼は天を仰いだ。
落ち込んで暗い表情(かお)をしている王子を見ていられなかったのは自分なのだ。
そんな事で、既に引き返せない道に迷い込んでいる自分に気付く。
思わず溜息が零れ出た。
いつもの調子を取り戻した王子は、そんな青年の哀愁など気にせず、溜息ごと唇を奪う。
そして、そのままゆっくりと寝台に青年を押し倒すと、自分を見上げる青年に満面の笑みを浮かべて言った。
「安心したらヤりたくなっちゃった」
「おい…今したばかりだろう」
犯る気満々な王子の言葉に、青年の額に冷たい汗が流れる。
「えーだって、さっきのは実験みたいなものだったし。さっきのはノーカウント、今度が本番ってことで」
「さっきだって散々しただろう!そもそも俺は明日近衛隊の演習が…」
「うん、だから僕が直々に君は有給だって隊長に言っといてあげる」
青年がどう言おうと、王子は自分の意思を貫く気らしい。
やはり甘くするんじゃなかったと、早々に後悔がこみ上げる。
「さっきまで身分がどーのこーの言っていた奴が、こんな所で特権を使うな!そもそも後で何か言われるのは俺なんだぞ」
「隊長に文句は言わせないから安心して。それに僕は君の為なら何でも利用するよ、それが身分でもね。僕は君が『王子』だからじゃなく『僕』だから抱かれてくれるってのだけわかればそれでいーし」
そう言うと、首筋に吸い付くように口付けた。
先ほどまでの行為で敏感になっていた躯は、それだけの事で肌に赤味を帯び始める。
王子が唇を離すと、花びらのようにそこだけ一際濃い朱が残った。
「それにさっきのじゃ君も不満でしょ。『上の空』なんて言っちゃってたし」
にっこり笑ってそう言うと、青年は言葉を失う。
その沈黙を肯定と捉えて、青年を昂ぶらせるようにその肌に指を這わせながら、王子は心の中で黒の鳥に向かって勝利の笑みを浮かべた。

彼はもう僕のだ、お前になんか渡さないからな

と。




K家姉
妄想日時:’08.3.7
妄想場所:職場にて

とにかく王子をヘコませてやろうと思ったのに、逆にご無体王子を復活させてたり。
基本的にご無体王子と辛口な従者の組み合わせが大スキですv


愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないside鳥 愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないside青年