花帰葬
玄冬×銀朱         
08.1.12          
 或るG氏の食卓

銀朱には休憩する間もなかった。

救世主が城内の人々をその剣で切り捨ててしまうという残忍な事件。
牢に転がっていた逆賊の死体に全てを押し付ける事にしたが、それにしても事後処理やら整理やら何から何まで一人で処理しなければならない。

銀朱の父、元第三兵団団長に力添えを依頼するとか、政に詳しい者を集め暫定的に国を動かす事も出来るが、知恵ある者を呼ぶ前に片付けなければならない問題は多々あった。
今すぐ誰かに手伝ってくれと泣き言を言いたいくらいだが…兵も文官も皆今はいない。
いるのは国政も軍務もしらない男がただ一人…。

「この城の厨房と材料を借りて飯を作って来た。少し休んで飯にしろ」
料理を運びながら玄冬は銀朱に促した。
「飯など食っている暇などあるか!」
部屋に入って来た玄冬を見ることもなく、銀朱は一喝した。
だが、玄冬も引かなかった。
「そんな事を言って飯も食わずにあんたが倒れたらどうする?そっちの方が問題だ」
「う…っ!…わかった」
銀朱自身かなり疲れていたしお腹が減っていない訳もなかった。
それでも今まで自分が敵と信じてきた男が作った料理だと、慎重に口に含んだ。

「う……うまい」
「そうか…良かった」
銀朱の一言を聞いて玄冬はほっと胸を撫でおろした。
『自分に出来る事をしろ』と言う銀朱の言葉を聞いて玄冬も懸命に考えた。
だが、これまで国政も軍務にも縁のない生活を送って来た玄冬は、銀朱の仕事を手伝おうにも邪魔者扱いされるだけ。
だからと言って帰れと言われて帰る訳にもいかなかった。
玄冬は玄冬なりに考えて銀朱の食事を作る事で役に立とうと考えたのだ。
そして、それは見事に成功した。

「これからも俺に飯を作ってくれないか?」
「ああ。任せておけ。料理は得意だ」
銀朱が食事をせっせと口に運びながら何気なく言った一言だが、玄冬は嬉しそうに返事をしていた。
カチャカチャと食器と食器がぶつかる音と、銀朱が食べ物を口に運ぶ音だけが部屋に響いて…


突然銀朱はゲホゲホと咳込んだ。


「どうした隊長!?」
「な…何でもない!!」
「顔が赤いぞ!?」
「だから何でもないと言っている!一々細かい所に突っ込むな、馬鹿者!」

銀朱は必死にごまかそうとした。
何気ないやり取りが頭の中でぐるぐると回っていた。

(俺の為に飯を作れ?…まるで……まるでそれは……プロポーズの台詞みたいではないか…)
改めて考えると自分は何を言ったんだと恥ずかしくなってしまった。

「どうした?隊長…」
「わからないならいい!…もう俺に構うな!!」

銀朱は残りの食事をささっと済ませ、仕事の続きに取り掛かった。
玄冬はその食器を片付けると銀朱の執務室の椅子に腰を下ろした。

暫く沈黙が続き、突然玄冬が「ああ…!」と声を上げた。

「どうした!?」
「わかったぞ!さっきの会話はプロポーズの台詞の様に聞こえるんだな」

一人ポンッと手を叩いて真顔で納得する玄冬の傍で銀朱は豪快に顔面から机に突っ込んでいた。





K家妹
妄想日時:’08.1.6
妄想場所:車内

銀朱も玄冬も生真面目という基本的性格はそっくりなのに、堅物同士で意志疎通がスムーズにいかなかったり、
テンポに差が生じるって辺りを面白可笑しく文章にしてみました。
真面目な分、怒るに怒れない(笑)


或るG氏の憂鬱 或るG氏の寝室