まるマ         
04.12.24          
 Xmas Time with U・2

「ユーリ、もうグレタおやすみしなきゃダメなの?」
愛用の枕を抱えた愛義娘(まなむすめ)に見上げられて、当代魔王陛下は相好を崩した。
が、にやけた自分に気付いたのか、はっとして勢い良く首を左右に振る。
「目、回しちゃうよ?ユーリ」
とグレタが心配するくらいに。
「あ…あぁ…」
動きは止めても働いた慣性は急には止まらず、くらくらする頭を手で抑えながら
ユーリは優しく グレタに語りかけた。
「あー、こほん。いいかーグレタ、今日はクリスマス・イヴなんだ」
「うん。ユーリの産まれた世界(くに)でのお祭りだよね。 えーっとぉ「きりすと」さんの
お誕生日でー。…「きりすと」さんってみんなにお誕生日のお祝い してもらえるんだー、
偉い人なの?ユーリとどっちが偉い?」
「え?いや、そりゃイエス・キリストに決まってるけど」
「えーそーなのー」
グレタは不満そうに眉をしかめた。
が、すぐににっこり笑うと
「グレタはねー、ユーリの方が偉いと思うよ」
と言ってキュッとユーリの服の裾を握る。
「グレタ…」
信じて疑わない子供の純粋な瞳に感動し、再び親バカモードになる寸前の所で
ユーリは危うく 踏みとどまった。
そして自分の気持ちを切り替えるように小さく咳払いし、再び語りかける。
「あ、いや、それはまぁいいんだ。えっとな、それでどうして今日は 早く寝なきゃ
いけないかと言うと…」
グレタは相づちを打ちながら、じっとユーリの次の言葉を待っている。
「クリスマス・イヴの夜にはサンタクロースがくるからだよ」
「さ、ん、た、く、ろぉ…?」
「サンタクロースってのは赤い服着た白い髭のおじいさんで、トナカイに乗ってやってくるんだ。 そんでサンタクロースは良い子が夜、眠ってる間にやって来てプレゼントをくれるんだよ。 だから今日は早く寝てサンタクロースが来るのを待たなきゃな」
「ふぅーん」
グレタは納得のいかない顔をしている。
「グレタ?」
「ねぇユーリ…」
首をかしげながらグレタは言った。
「どうして、「きりすと」さんのお誕生日に、その…「さんたくろぉす」のおじいさんは プレゼントをくれるの?「きりすと」さんが「さんたくろぉす」のおじいさんに頼んでるの? でも、変だよねぇ、普通お誕生日には、プレゼントをあげるんじゃなくてもらうんじゃないのかなぁ」
「うぅっ!!」
子供らしい素朴な疑問にユーリは息を飲んだ。
そういや、そんな単純なこと、考えたことが無い。
クリスマスの風習の無い世界だからこそ、思う疑問なのかもしれないが…。
産まれた時から「クリスマスはサンタさんからプレゼントをもらう日」と刷り込まれている
日本の子供のユーリには、その質問の答えはどれだけ考えても思い当たらなかった。
(今度村田に聞いてみよう…)
愛しい義娘の疑問に、ユーリは白旗を揚げた。
成績優秀で雑学大王の村田健なら、キリスト教の風習にも詳しそうだ。
「…グレタ…それは今度な」
愛想笑いで誤魔化すと、複雑な顔でそれでもグレタは頷いた。
なんとか質問をしのいだとほっと息をついたのも束の間、服の裾を掴む力が強まったのに
ユーリは気付いた。
いつの間にかグレタはうつむいている。
「グレタ?」
声をかけるとグレタはゆっくりと上を向いた。
「ユーリぃ、「さんたくろぉす」のおじいさんはきっとグレタの所に来てくれないよぉ」
グレタの瞳に涙が浮かび始めているのを見て、ユーリはうろたえた。
「き…急にどうしたんだよ、グレタ?!サンタクロースはちゃんとグレタんトコに来るって」
グレタの小さな両肩を掴み、ユーリはぐいっとグレタを自分に向かせる。
焦点がユーリに合うと、涙は急速にあふれ出てグレタの頬を濡らし始めた。
「だ…だって…」
言葉を詰まらせながらも、グレタはたどたどしく話し始める。
「だって…グレタ良い子じゃないもん…ユーリに酷い事したし…いっぱい…困らせたし…。
ぜんぜん良い子じゃ…な…ない…。だから…「さんたくろぉす」のおじいさん…グ…グレタの
所に来たり…しないもんっ…!」
そこまで話すと限界が来たのか、わぁと声を上げて泣き出した。
子供らしく、泣き顔も隠さず、ただ手放しで。
「グレタ!」
あまりにも悲し気に泣く義娘の姿に心が痛んだのか、ユーリはぎゅっと
グレタを抱きしめた。
それはあまりにも強い力で、苦しがるよりもまずグレタは驚いた。
そして、驚きのあまり真っ白になった心にユーリの言葉は深く届く。
「グレタは良い子だよ。そりゃあ、確かに最初はやり方を間違えたかもしれない。でも、グレタはそれを 間違いだってちゃんとわかってて、そしてそれを後悔している。だから、悪い子なんかじゃ ないんだぞ。それに…俺はむしろ感謝してるよ。例えそれがどんな出会いでも、グレタが俺んトコ来て、 しかも義娘にまでなってくれた事。だから、もう…こんな風に苦しまなくていい…っ!」
「ユーリ…」
グレタは自分を抱きしめてくれるユーリの温かさに、その言葉が嘘ではない事を知った、
だから…――。
「ユーリぃ…苦しい…」
「…え?」
グレタはユーリの胸をたたいて息苦しさを訴えた。
なにしろ、鼻も口も押さえつけられて呼吸すらままならなかったのだ。
「わ…悪いっ、大丈夫か!グレタ!!」
ユーリも気付いたのか、慌ててグレタと距離を取る。
グレタは何度も新鮮な空気を吸った。
心配そうにユーリはグレタの顔を窺うと、もう新しい涙は溢れて来ないようだった。
ほっとするユーリにグレタは笑いかける。
「ううん、グレタこそゴメンねユーリ。困らせるようなこと言っちゃって」
そしていつの間にか床に落ちていた枕を拾い上げると、
「そうだ、早く寝ないと「さんたくろぉす」のおじいさん来てくれないんだよね」
と言った。
「だって夜更かしする子は悪い子だもんね」
「あ…あぁ…」
急変した態度についていけないのか、やや呆然とユーリは義娘を見た。
「そう、だよ。サンタクロースはちゃんとグレタを見てるんだ。
グレタがどれだけ良い子かってこと」
「ふぅん。じゃあグレタもう寝なきゃ」
そう言ってグレタは扉に向かって走り出した。
今晩は一人で寝なければいけないと既に言い聞かせてある。
「おやすみ、ユーリ」
「ああ、おやすみ、グレタ」
ドアの隙間からちょこっと顔だけ出してお休みの挨拶をする義娘を、
腑に落ちないながらも優しい笑顔でユーリは見送った。

子供には大きすぎるベッドに潜り込んで、グレタは目を閉じる。
そして自分がどれだけユーリに愛されているかを思い出した。
自分を「悪い子」と言った時のユーリの哀しそうな表情(かお)。
自分自身を責めると、それを否定するように抱きしめてくれた腕の強さ。
(グレタねー、夜更かしよりも悪い事、わかったよ)
とろりと眠気に意識が遠のく中、まぶたの裏に映る「おやすみ」と言ってくれた
笑顔のユーリに、 グレタはそっと語りかけた。
(グレタが自分を「悪い子」と責め続けること、グレタが泣くこと…だって、ユーリは
グレタが悲しむと悲しむんだもん。グレタはねーユーリが悲しむ事をする事が、
一番悪い事だって…わかった…よ)
やがてグレタは、ユーリの笑顔を思い浮かべたまま、静かに意識を手放した。




妄想日時:不明
妄想場所:色々
妄想日時:不明
妄想場所:色々
本当はもっとドタバタした話だったんだけど、途中で妙にしんみり話になってもた。
ドタバタ部分は明日へ、と言うことで。
ちなみにこの連続クリスまス小説のタイトル『Xmas Time with U』は
trfのアルバム曲から。
実は既に、ペルソナのクリスマス本で使ってるタイトルなんですが…使い回し上等!


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